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多賀谷克彦の波聞風問

 就職活動ルールの是非論が飛び交うなか、来春に就職する学生の就活が山場を越えた。さて、今年の応募状況はどうだったろうか、と前から気になる企業があった。

 イオングループの農業法人イオンアグリ創造(千葉市)である。全国21カ所の直営農場を運営する。本社を含む社員は約650人、平均年齢は30歳前後と若い。100人以上が働く大農場もある。

 2014年に定期採用を始め、15年には大卒の採用に踏み切った。この年、驚いたのは採用担当だけではない。グループ幹部も「本当か」と数字を疑った。数十人の採用枠に4千人もの応募があり、倍率はイオングループで最高の約100倍に達したのだ。

 翌年からは採用枠を絞り、説明会場を減らしたが、1500人規模の応募が続いた。急に農場を広げたり、増やしたりすることも難しく、今年は採用枠を1桁台にしたが、応募者は500人に上った。

 この数字は何を意味するのか。15年の農業就労人口は半世紀前の6分の1の210万人、60歳以上が8割を占めるまでになり、持続可能性が問われている。

 だとすれば、この現象は家業の農業を継ぐ人材は少なくても、働く条件を整えれば、農業に従事したいという人材は少なからずいるということではないか。その条件とは何か。例えば、新規就農者の実態調査では、ほぼ半数が課題として挙げたのが「所得の少なさ」であり「休暇取得の難しさ」だった。

 労働基準法では、仕事が天候に左右される農漁業者には、労働時間、休憩、休日に関する規定が除外される。つまり、農業法人でも一般企業のような法定労働時間は適用されず、時間外給与は支払わなくてもいい。これでは彼らの将来不安は解消されない。

 イオンアグリ創造はグループの就業規則を基本に、農業の実態にあう働き方を追求している。時間外給与の支給、出産・育児休業はもちろん、雨続きで農作業ができない日が続く週には休日を多くし、翌週以降に就業時間を振り替えるようにした。いまは年2回5日以上の連続休暇を取得しようと呼びかけている。

 社長の福永庸明さんは「農業を産業化するのが我々の役目」という。

 農業法人が一斉に一般企業並みの労働条件に改めるのは難しい。ただ、新鮮な農作物を食べ続けるために、食に携わる企業は若い人たちに魅力ある農業とは何かを追い続けるべきだろう。

 イオン宇都宮農場でキャベツを担当する杉山敬祐さん(25)は学生時代、途上国でのボランティア活動で食糧の重要性を知り、農業を志したという。「小さな苗がキャベツに育つ喜び。収益も見える化されているのでやりがいもある」と話す。

 若い人たちは職業としての農業に魅力を感じていない。まずは、この定説から疑ってもいいのではないか。