自然は残り、住民は去った ダム計画止まった村の10年

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村上伸一
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 国の川辺川ダム建設計画に熊本県蒲島郁夫知事が反対を表明してから、9月11日で10年が過ぎた。清流が残された同県五木村は今、豊かな自然にひかれて観光客が増えるなど明るい兆しもある。ただ、代替地への移転を機に多くの人が村外に出て、残った村民は将来に不安を募らせる。

 かつて村役場や住宅があった川辺川沿いの旧水没予定地。今は公園が造られ、コテージでの宿泊やボルダリングなどが楽しめる広場の整備が進められている。

 県と村は旅行会社へのPRも強化。夏の川遊びを楽しむ小学生の林間学校などが人気を呼び、この10年で村を訪れる観光客は12万人から17万人に増加。林業の売り上げも2・5倍に増えた。

 川辺川ダム計画の反対運動に取り組み、絶滅が危ぶまれるクマタカの生息域を粘り強く観察して、国土交通省に建設予定地の一部で工事を断念させたことで知られる環境カウンセラーの靎(つる)詳子さん(69)は「清流川辺川はとりあえず守られた。造られていれば、下流は水質がどんどん悪化していただろう。ダム計画をめぐる流域住民の分断も解消することができた」と評価する。

 村民は旧水没予定地から約70メートル上の高台で暮らす。16年前に移転した役場や住宅などが並ぶまちには、ひっそりとした雰囲気が漂う。近くの道の駅から流れる「五木の子守唄」の放送だけが響く。

 「10年たって施設はできたが、人はおらん。村全体があきらめムードだ」。高台に移転した北原束(つかね)さん(82)はこぼす。最初はダム反対だったが、国や県からの強い要請で水没者団体の事務局長として補償や生活再建の条件交渉にあたった。

 だが、ダム計画で元の家を離…

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