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【アピタル+】患者を生きる・食べる(大腸がんと人工肛門)

 2015年に大腸がんが見つかった漫画家の内田春菊さん(59)は、医師に「人工肛門(こうもん)になる」と告げられて大きなショックを受けました。ですが、手術後、自分自身によるケアの仕方などを学び、次第に普段通りの暮らしを取り戻します。人工肛門とどのように向き合えばよいのか。人工肛門専門の看護師で静岡県立大学教授の青木和恵さん(63)に聞きました。

人工肛門にショック…患者支える「ストーマ外来」

――人工肛門とは、どのようなものでしょうか。

 人工肛門はストーマとも呼ばれます。大腸がんなどの病気で肛門が使えなくなった患者さんのおなかに、手術をしてつくる排泄(はいせつ)口のことです。おへそより少し下の左か右にずれた位置に穴を開けて、腸の一部を皮膚の外に出し、そこから排便できるようにして肛門の代わりにします。腸の一部が体外に出ていて、梅干しのような大きさと形で赤色をしています。

――初めて「人工肛門になる」と告げられると、患者さんは驚きますね。

 大変なショックではありますが、がんなどの病気を治すために必要なことでもあります。病気を治療するという目標をもって、苦難を乗り越えようとする気持ちを持つことが、患者さんの治療の第一段階とも言えます。最初は、いろいろなことが短い時間に猛スピードで訪れます。多くの場合、がんの告知と人工肛門になることを告げられるのは、ほとんど同時です。混乱しがちな患者さんの気持ちに寄り添い、支えるのは、私たち人工肛門のケアを専門とする看護師の仕事でもあります。

――患者さんの受容をどのように進めるのかが重要ですね。

 大きな病院には、専門の看護師が相談に応じる「ストーマ外来」があります。運営するのは「皮膚排泄ケア認定看護師」と呼ばれる資格を持った看護師たちです。人工肛門になった場合、排泄物をためる機能を備えた袋である「ストーマ装具」を人工肛門の部分に常に貼り付け、週2回ほどの間隔で患者さんが自分自身で装具を交換しながら生活します。この装具の管理がうまくいかないと、人工肛門のまわりの皮膚が炎症を起こしたり、便が装具から漏れたりするなどして、患者を悩ませます。正しいセルフケアの方法を身につけ、これらのトラブルを抑えられると、生活への自信が戻り、生きがいも見つかります。

 

写真・図版

食べるものは自由、よくかんでゆっくりと

――食事で気をつけることは何でしょうか。

 基本的に人工肛門の人が食べて悪いものはありません。ただし、「よくかんで、ゆっくり食べ、一気にたくさん食べたり飲んだりしない、おなかをひやさない」と気をつけてもらいます。これは人工肛門をつくった人だけではなく、腹部を手術した人々に共通する注意点で、術後合併症である「イレウス」を避けるための原則です。

 イレウスとは、おなかの動きが悪くなったり止まったりして、排便や排ガスがなくなり、腹痛、吐き気やもどしたりという症状がおこるものです。良くかむことに自信がない場合には、調理段階で小さく切ったり砕いたりしておくことが必要です。

装具は進化、悲観せずに向き合って

――人工肛門をめぐっては、どんな誤解が生じがちですか。

 人工肛門になったら普通の生活ができなくなってしまうという誤解から、「自分は廃人になるんだ、仕事も友人も、生活も失ってしまう」というように絶望的になる人がいます。そう感じるのは、装具から便が漏れたり、深刻な皮膚トラブルを起こしたりする暗いイメージが強いからかもしれません。確かに、昔は大変でした。

 しかし、今はストーマ装具が進化して、皮膚障害や漏れを抑えられるようになりました。多くの医療関係者が技術開発に取り組んで、使いやすくてトラブルの少ない製品がたくさん販売されています。適切な手術でつくられたストーマならば、大きな支障なく日常生活を送れるようになっています。多くの職種で、手術前と同じ仕事にも復帰できるのです。

――つらい思いや不便さと、どう向き合えばよいでしょうか。

 人工肛門になるというは、がんを克服する一つの方法でもあります。大腸がんは、どちらかというと治療しやすいがんの一つです。人工肛門と引き換えに、自分の命が救われたのだと考え、明るく希望を持って生活している人々がたくさんいらっしゃいます。

 もちろん重症の大腸がんもありますが、治療が難しいケースも含めて、多くの患者さんにとって苦しい状況を人工肛門が救ってくれているとも言えるのです。がんが治って日常生活に戻れるのは、人工肛門のおかげ。最後はいとしくなり、感謝の気持ちを抱くようになったと、人工肛門になったたくさんの患者さんが、私たちに伝えてくださります。

 

 ◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

<アピタル:患者を生きる・食べる>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(伊藤隆太郎)