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 「ユアロ、長い間ありがとう」。鍼灸(しんきゅう)師の相吉堯春(たかはる)さん(79)=甲府市湯村=は、約8年間にわたって自分の目の役割を果たしてくれた「パートナー」の頭をやさしくなでた。

 静岡県富士宮市の盲導犬訓練施設「富士ハーネス」。訓練だけでなく、盲導犬の繁殖から引退した犬のケアまで行う総合施設だ。盲導犬が視覚障害者を助けて働くのは基本的に2歳から10歳までの8年間。10月29日、相吉さんは、10歳が近づいたラブラドルレトリバーのオス「ユアロ」を同施設に返しに来た。

 相吉さんは幼い頃に緑内障を患って失明。知人の勧めで約25年前から盲導犬の助けを借りた暮らしを始めた。ユアロは3代目だ。毎朝5時半、ユアロを伴っての散歩が日課。「3頭の中で一番慎重な犬。いつも道の端っこを歩くし、私が一度つまずいた場所に来ると必ず止まる」。一方でとても人なつこく、知った人に出会うと愛敬を振りまいていたという。

 やはり障害者の妻が自宅での生活が困難になって施設に入ってからは、ユアロが唯一の話し相手。「虫が鳴いているねえ」などと語りかけてきた。別れが決まってからは、毎日のように「ありがとう」と話した。ユアロがその気持ちに気づいたかどうかは分からないが、これまでは家の中の涼しい場所が定位置だったのに、最近はいつも相吉さんのそばに座っていたという。

 「別れるのは寂しいが、感謝しかない。可愛がってくれる家に行って長生きしてほしい」

 相吉さんのもとには4代目のパートナーが訓練の後でやって来る。ユアロは、引退犬の飼育ボランティアに登録した家庭に引き取られる予定だ。富士ハーネスでは、昨年は4頭が家庭に引き取られた。引退犬に健康上の問題がある場合は施設の中で余生を過ごす。現在は4頭が生活している。

 「戌(いぬ)年」もあと2カ月。(六分一真史)