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 米ハワイで毎年開かれるホノルルマラソンに、がん患者やサバイバーらが参加するツアーがある。これまで400人が参加、全員が完走した。走ることを決めた患者は、みるみる表情が変わり、「違うもの」を見るようになるという。

 昨年12月、ハワイ・オアフ島。愛知県岡崎市の非常勤講師藤江法子さん(53)は、乳がん治療中の30代の女性に伴走しながら、ホノルルマラソンを走った。16時間かけて完走。女性を励まし、寄り添い続けた藤江さんは「仲間が走りきったことがうれしかった」。

 藤江さんは、ツアーに参加して今年で5回目になる。08年3月、左胸にしこりを感じて病院へ行き、乳がんだと診断された。3カ月後に手術を受けた時は、リンパ節に転移していた。退院後、抗がん剤治療や放射線治療を受けながら復職したが、副作用で全身の痛みやだるさなどにさいなまれ、うつ状態になった。

 「生きることも嫌になった」ころ、がんサバイバーでシンガー・ソングライターの杉浦貴之さん(47)のライブに行った。

 杉浦さんは28歳の時、腎臓にがんが見つかり、余命半年の宣告を受けた。治療はつらかったが、「ホノルルマラソンを走り、ゴールする」という夢を打ち立てると、生きるエネルギーがわいてきた。がんを克服し、夢をかなえた杉浦さんは2010年から、ホノルルマラソンツアーを主宰していた。

 ライブをきっかけに杉浦さんの話を聞き、藤江さんにある気持ちが芽生えた。「私も走りたい」。ツアーの実行委員会に加わった。心身の調子も良くなってきた14年、ホノルルマラソンを走ることを決意した。

 これまで、「がんを理由に仕事で周りに迷惑をかけてはいけない」と気を張っていた。だが、マラソンを走るため、職場に休暇をお願いすると、周りは快くカバーを引き受けてくれた。「1人で頑張ろうとしていたけど、それはバカな我慢で、周りは協力してくれるのだ」ということに気づいたという。

 初マラソンは8時間で完走した。走っている間、「生きている」と実感した。以来、ツアーのチームリーダーとして毎年参加。診断から10年経った今夏、がんは完治した。

 ツアーの参加者には、がんが骨に転移して歩くこともできなかった患者や、余命宣告を受けた人もいる。だが、参加を決意した人は皆、みるみる表情が明るくなっていくという。「きっと、それまではがんだけを見ていたのが、違うものも見るようになったんでしょうね」と藤江さん。

 ツアーには、参加者が完走できるよう様々な役割のサポーターがいる。スタート時に真っ先にゴールを目指し、そこで後からゴールする人を元気付ける担当。患者らに付き添い、励ましながら一緒に走る担当。多くの人に支えられ、これまで、のべ約400人が参加、全員が完走した。

 「がんになると、病気を治すことが目標になりがちだけど、マラソンを走ることを目標にすると、生きることが目標になる」(大野晴香)