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 11月14日の放課後。体育館につながる渡り廊下で、相賀くに恵(あいが・くにえ)さんはえんじ色のジャージー姿を呼び止めた。「はい、これ読んで」。部活に向かう彼女に一通の手紙を手渡した。

 「よこ」は前年の小学6年の夏に広島から転校してきた。父親が転勤族の相賀さんも、少し前に仙台からきたばかり。同じ机の列で、すぐうちとけた。彼女に誘われ一緒にバレエ教室に通った。部活は相賀さんが誘った。地域で盛んだったバドミントンを選んだ。

 読書家で、推理小説もよく読むよこ宛てだから、「暗号」のつもりで、点と線だけのモールス信号の手紙にした。「ライゲツチバニ ヒッコスコトガ キノウ キマリマシタ ヨコニ イチバンニ オシエルネ」

 「あら。じゃあ、図書館で調べれば分かるかしら」。そう言って、彼女はにこっと笑った。さみしいけど、暗号を解いて何を言ってくれるか楽しみだった。

 15日の朝8時ごろ。「よこー」。ご近所同士の坪井君予(きみよ)さんはいつものように、玄関前で呼びかけた。家の中から母親の声がする。「寒いからコートを着ていきなさい」

 制服に似た紺色を選ぶ生徒が多い中、彼女のコートはベージュ。少し大人びて見えた。小春日和だった。「今日はいいわ」という声がして、人なつっこい顔が出てきた。2人してラケットをいれた赤いバッグを揺らした。

 午後の部活は、いつもの通り、フットワークや打ち合いをした。25人ほどいる1年生の中で、ダブルスのペアを組んでいた。坪井さんが前衛でよこが後衛。ミスをしたら「大丈夫だよ」と声をかけてくれる。普段は明るくはきはきしているけれど、数日前の新人戦で5位に終わると体育館の隅で泣いていた。

 2人が練習を始めたころ。真保(しんぼ)恵美子さんは体育館の入り口から中をのぞいた。舞台側に彼女が見えた。

 昼休みによく集まっては、バスケをしているあこがれの先輩の名前をあだ名で呼んで面白がった。

 体育で突き指をして、バド部の練習を休むことにした。「先に行くね」と言おうと思ったが、そのまま校門を出た。緩やかな坂を300メートルほど歩くと、いつものT字路に出る。この日は別の友だちとしばらく、おしゃべりをした。

 カバンを置いた角の空き地で春先、真保さんはよこと2人でツクシを摘んだ。そこから奥へ100メートルほどのところの木造平屋が彼女の家。玄関を入って右側の彼女の部屋で一緒に「ベルサイユのばら」の絵を描いたりして遊んだ。そんな様子を、よこのお父さんがにこにこと眺めていることがあった。

 すぐ近くの海岸沿いへ時々、ふたりでサイクリングに出かけた。小学校では同じコーラス部。「海は広いな……」。よこはふいに、歌い出すことがあった。1人なら恥ずかしいはずなのに、彼女と一緒だと自然と口ずさんでいた。

 それなのに。

 どうして…

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