サバやイカといった多くの魚介に寄生する「アニサキス」。激しい胃痛を起こす食中毒「アニサキス症」で知られていますが、どんな線虫なのでしょうか? 食中毒の正しい予防法も紹介します。
アニサキスは海に生息する線虫です。最終的にはクジラやイルカといった海の哺乳類を宿主として寄生します。胃の中で成虫になって、メスは卵を産みます。
その卵がフンとともに海に排出され、幼虫になると、それをオキアミが食べます。そのオキアミを餌とするサバやイカ、サケ、サンマ、ホッケ、タラ、カツオなど多くの魚介の内臓で成長します。
この魚介が水揚げされて死ぬと、アニサキスは内臓を食い破って筋肉へ移動します。これが、私たちが見かける全長2~3センチ、ひも状のアニサキスの幼虫です。
拡大するアニサキスの幼虫。右上の写真はサバの身に寄生しているアニサキス=国立感染症研究所提供
生きたまま人間の胃に入ると、体が異物を排除しようとします。激しい胃痛が起きたり吐き気をもよおしたりといった食中毒「アニサキス症」は食べてから数時間後に起こります。内視鏡でアニサキスをとると痛みがおさまります。
ですが、正しく予防すれば、魚を食べることを極端に恐れる必要はありません。
・よく見て取り除く
・70度で加熱(60度なら1分以上)
・マイナス20度で24時間以上冷凍
内臓にいることが多いので、自分で釣ったり捕ったりした場合はすぐに内臓を取り除きます。また、アニサキスの幼虫は白いひもや糸のように見えるので、確認して取り除くことができます。ただし、潜り込んで見えにくいアニサキスもいます。しっかりかんだり、ワサビや酢・しょうゆを使ったりしても死にません。
熱に弱いので、70度でしっかり加熱(60度なら1分以上)しましょう。マイナス20度で24時間以上、魚の真ん中まで冷凍するのも効果的です。東京都健康安全研究センターによると、家の冷蔵庫なら数日は冷凍すると安全です。
1970年代に内視鏡が広がり、青魚を食べたあとの胃の痛みの原因がアニサキスだと分かるようになってきました。
2013年に、厚生労働省に報告する食中毒の原因物質に「アニサキス」の項目が入りました。患者や医師らの認知度が上がったこともあり、昨年は242件の食中毒が報告されています。
国立感染症研究所などが診療報酬明細書を調べたところ、年7千件ほど起きていると推測されています。
拡大するアニサキスの幼虫を展示する目黒寄生虫館。左側はイカとサンマに寄生したアニサキスのホルマリン漬け
食品衛生や食物アレルギーが専門で、アニサキスに詳しい東京海洋大(東京都港区)の嶋倉邦嘉准教授によると、こうした報告が増えてくるにつれ、サバなどの青魚を食べて体調を崩すのは、魚のたんぱく質ではなくアニサキスのたんぱく質に反応してアレルギーを起こした場合があることが分かってきました。
拡大するアニサキスに詳しい東京海洋大の嶋倉邦嘉准教授。水産高校で使う教科書を執筆する際、アニサキスについてふれた
アニサキスは多くの魚に寄生しているうえ、分泌物にアレルゲン(アレルギーの原因物質)が含まれたり、加熱しても、反応を起こすアレルゲンもあったりするので、重症なアレルギーの人は海の魚を避けた方が安全です。嶋倉さんによると、オキアミを食べないよう管理して養殖した魚や、海を回遊しない川魚(イワナなど)、アサリといった貝類にはアニサキスはいないとされています。
食中毒のアニサキス症とアニサキスアレルギーの関連は正確には分かっておらず、まずは安全に魚を食べることが大切です。
ホルマリン漬けなど300点を展示する目黒寄生虫館(東京都目黒区)では、アニサキスの成虫や幼虫を紹介し、「食中毒の予防」についても啓発します。
拡大するパネルでアニサキスの生態を紹介している目黒寄生虫館。加熱・冷凍といった食中毒の予防も啓発している
嶋倉さんは「魚の鮮度を保てるようになり、各地で生で食べる機会が増えました。それなのに啓発の機会は少ない。安全な食べ方を発信していく必要があります」と指摘しています。
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<アピタル:患者を生きる・食べる>
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