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 岩手に転勤して驚いた。NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」の主人公のんさんの活躍をあちこちで見かけるからだ。地元銀行のイメージキャラクターやブランド米の看板娘――。「能年玲奈」から改名し、東京では一時期と比べて目にする機会は減ったのに、ここ岩手ではいまだ番組が続いているのか! 「のん的な生き方」の原点と岩手で続く相思相愛の理由を求めて、ドラマの舞台となった久慈市へ向かった。

じぇじぇじぇ、埋まる「あまロス」

 盛岡から車を走らせること2時間。到着した久慈駅から2~3分歩くと店のシャッターに描かれたあまちゃんのイラストを見つけた。「じぇじぇじぇ、こんなにすぐに会えるなんて」。実は記者も「あまロス」を経験していた。よく聞く「○○ロス」という言葉も、元々はあまちゃんが始まりだったはずだ。心の空白を埋めるように夢中で写真を撮った。

 よし、ドラマで何度も出てきた三陸鉄道に乗ろう。駅構内で駅弁を売る工藤クニエさん(79)は、ドラマで宮本信子さんが演じた役のモデルといわれる人だ。「演じさせていただきますとあいさつに来てくれたねぇ」。さすが聖地、あまちゃんワールドが至るところで体感できる。

頭では「潮騒のメモリー」

 列車に乗り、いざ北三陸の舞台へ。のんさん演じる天野アキちゃんと足立ユイちゃんが熱唱した「潮騒のメモリー」が頭の中に流れ出す。約30分後、アキちゃんが最寄り駅として使っていた堀内(ほりない)駅に着いた。列車は2分ほど停車。「ドラマでは袖が浜駅として登場した駅です」。車掌がガイドを始めると、乗客たちも駅から見える太平洋の絶景を写真に収めていた。

 ユイちゃんが使っていた田野畑駅では「思い出ノート」を見つけた。「ロケ地、やっと来れました」「あまちゃん、ありがとう」。最近の日付もあり、台湾から来たという人も。あまロス仲間たちの思いがひしひしと伝わってきた。

「故郷」の危機、急きょ見舞いに

 旅のハイライトは「喫茶モカ」。劇中でみんなが集った「軽食喫茶リアス」のモデルとされる場所だ。昭和を思わせるレトロな店内には、壁いっぱいにキャストの写真やサインが並んでいた。のんさんは卵焼きがそのまま挟んである店の「たまごサンド」が大好物で、撮影スタッフにもよく配っていたようだ。

 東日本大震災では大きな損傷はなかったが、岩手を襲った2年前の台風10号では喫茶モカも浸水被害を受けた。樋沢正明さん(71)と妻のあけみさん(65)夫婦は店をたたむことも考えたが、全国各地から応援の手紙が届いた。

 被災から18日後に営業を再開した。その翌日、のんさんと渡辺えりさんが店に駆けつけてくれた。「あなたたち死んじゃったのかと思ったわよ。3回電話してもつながらないんだから」と渡辺さん。普段から物静かなのんさんも、隣で優しくほほえんでいた。

今年ものんさん、ドラマそのまま

 震災から7年となる今年3月11日にも、のんさんが店にやってきた。動画配信サイトのライブ中継だった。樋沢さんは「第二のふるさとのように思ってくれているのかな。あまちゃんのおかげで、いろいろな人とのつながりができた。のんさんはまちを盛り上げてくれた恩人だよ」と目を細める。

 節目節目に久慈を訪れるのんさんと、いまでもあまちゃんの思い出が色あせない地元の街。小さくても確かな形で「物語」が続いていた。(井上啓太)

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 〈あまちゃん〉 引きこもりがちだった東京の高校生、天野アキ(のん)が祖母の夏(宮本信子)の影響で三陸の海女になり、親友の足立ユイ(橋本愛)とともに地元アイドルとして町おこしに協力しながら成長していく物語。2013年にNHKの連続テレビ小説で放映され、宮藤官九郎が脚本を手がけた。驚いた時に使われる方言「じぇじぇじぇ」が流行語になり、放送終了後には「あまロス」という言葉が生まれるなど社会現象となった。東日本大震災の津波で被災した岩手県久慈市をモデルにした「北三陸市」が舞台。ロケ地を訪れる観光客が急増し震災復興にも貢献した。