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 体重や体形にこだわり、食べられなくなったり、逆に食べ続けて吐いたり下剤をのんだりしてしまう「摂食障害」。他人と食事するのが怖く、飲み会や旅行といった人づきあいを避けてしまう人も多い。そんな悩みを持つ女の子たちを応援しようと、過去に同じ病気で苦しんだ女性が「修学旅行のリベンジ」を企画した。どんな旅だったのか。

「食べる」に悩む女性「自分を変えたい」

 「白組、強すぎるよー」「頑張ってー!」。よく晴れた秋空のグラウンドに、元気な女の子たちの歓声が響いた。

 10月7日、元小学校の宿泊施設「さる小」(群馬県みなかみ町)グラウンドには、数十人の女の子たちが、玉入れや大縄跳び、大玉転がしの「運動会」に汗を流していた。いま摂食障害に悩んでいる子や、苦しめられた経験を持つ子たちだ。

 その一人、長野県に住む大学2年生は、中学生の頃から摂食障害に苦しんでいる。部活でうまくいかず、「優等生でいなきゃ」と思い詰めて始めたダイエットがきっかけだ。「自分でコントロールできるのは体重だけ」と感じて、どんどん食べる量を減らした。体重が減ると「やせたね」と褒められ「認めてもらえたような気がした」と言う。

 高校生になると、「拒食」から一転、食べ過ぎてしまう「過食」と、食べ過ぎたものを吐く「過食嘔吐(おうと)」になった。

 今もストレスがたまったり、何か不安なことがあったりすると、苦しいと思うまで胃に食べ物を詰め込んでしまう。修学旅行の前日も過食をしてしまった。それでも、「自分を変えたい」と思い切って参加を決めた修学旅行。ギリギリまで行くかどうか悩んだが、「一歩踏み出さないと。行かないと後悔するかも」と思って集合場所に来た。

 摂食障害で病院を受診した患者は、厚生労働省研究班の調査で、約2万4500人という推計があるが、実態ははっきりしていない。ただ、日本は20代女性の5人に1人がBMI(体格指数)18.5未満のやせすぎだ。「やせ」を美しいとする日本の社会の風潮があり、体形や体重に悩んでいる女性は多い。

「しんどい思いの中、前向きに」気づいた

 さる小に到着後、まずはグループに分かれて「どんな修学旅行にしたいか」を考えた。「やり直す修学旅行」「もっと自分を好きになる修学旅行」。前向きな言葉が並んだ。

 運動会ではしゃいだり、キャンプファイアをしたり、ヨガをしたり……。翌朝には、プロの美容師にヘアセットをしてもらったり、メイクしてもらったりする時間もあった。

 大学生は、病気を理解してもらえない、拒絶されるかもしれないという恐怖で、病気のことを友人にも話せずにいた。でも、この旅行では、「食べる量が多すぎるかな」と誰かと比べたり、不安になったりすることがなくバーベキューを楽しみ、寝る前には、みんなで大学生活、仕事や好きな人の話をしているうちに、摂食障害についても自然と話ができた。「みんなしんどい思いを抱えながらも、前向きに進んでるんだな、と思いました」

一見ふつうの子が悩む 背中押したい

 修学旅行を企画したのは、自身も過食症に苦しみ、大量に下剤をのんでいた会社員の野邉まほろさん(24)。摂食障害が完治し、数年ほど前から、摂食障害に悩む全国各地の女の子たちに会いにいったり、SNSで相談に乗ったりしてきた。すると、大勢で同じものを食べる食事が怖くて、学校の宿泊行事に参加できなかったり、給食や学校に嫌な思い出しかなかったりする子がいた。そこで思いついたのが「修学旅行のリベンジ」だった。

 野邉さんの思いに共感した友人ら7人も運営スタッフとなり、仕事の合間を縫って打ち合わせを重ね、企画を練り上げていった。

 摂食障害の自助グループや専門の医療機関が少ない地方在住の人も参加してほしいと考えた。交通費などにあてたいと、7月にはクラウドファンディングで支援を募った。目標金額を大きく上回る128万円が集まった。

 一見ふつうの女の子が、友達との食事のあとに隠れて吐いたり下剤を飲んだりしている現状。野邉さんは「治し方は教えられない。だけど、変わりたいと思っている女の子の背中を押してあげたい」と話す。

1万円の使い道ワーク 自分が輝くために

 「女の子たちに『修学旅行』をただ楽しんでほしい」という気持ちだったが、野邉さんたちは企画の最後にひとつだけ「ワークショップ」を入れた。それは、それぞれの「1万円」の使い道を考える時間だった。

 「恩師に会いにいく交通費」「バイトで必死に働くのではなく、自分を見つめ直す時間にあてる」

 参加者からは、涙ながらに思いを語り、たくさんの前向きな意見が出た。

 野邉さんは「過食のためにパンやコンビニ弁当を買うと、あっという間に使ってしまう額。同じ額で、何ができるのかを考えてほしかった」と話す。

 長野県から参加した大学生は、「かわいい食器をそろえてみようかな」と書いた。「摂食障害のせいで何かができないのはすごく悲しいし、時間もお金も、もっと自分が輝くために使えるんだなぁと気づきました」

フラットな関係で「楽しむ」経験を大切に

 摂食障害の当事者にインタビューを重ねた「なぜふつうに食べられないのか」の著者で文化人類学者の磯野真穂さんは「『摂食障害の知識を学ぶ』といったイベントばかりではなく、フラットな関係のなかに安心できる空間が生まれる企画はとても大切」と指摘する。

 身体や食べ物の「当たり前を脱ぎすてる」をテーマに、磯野さんは2年前から「からだのシューレ」というイベントを開いている。今年から、メンバーに摂食障害に悩んだ経験のあるプラスサイズモデルのNaoさんと管理栄養士の鈴木真美さんが加わった。

 11月上旬、2人が企画した「こころのピクニック」では、摂食障害の当事者が自由に食べ物を持ち寄って公園に集まった。太る・やせるにとらわれない食べ物の話、生活の中で楽しかったことを振り返るワークなどが盛り込まれた。

 「摂食障害に悩む人たちは『共にある空間をただ楽しむ』経験を失っていることが多い。自由に食べたりただ笑ったりといったかかわりを増やしていってほしい」

     ◇

 磯野さんの取り組み「からだのシューレ」は、今後もイベントを開催予定で、ブログ(https://note.mu/karada_schule別ウインドウで開きます)で詳細がチェックできる。

<アピタル:やせたい私~摂食障害のいま>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/yasetai/水野梓