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 スマホアプリで健康管理というと、体重や血圧の記録や、ジョギングの距離や時間の測定といったライトなイメージがあります。ところが最近、医師も開発に関わった生殖医療や難病治療につながるような本格的なアプリが登場しているのをご存じでしょうか。アップル社も研究機関と連携して、医療関係のアプリ開発を支援しています。最新事情を探ってみました。

 スマホカメラのレンズにつけた、拡大鏡の役割を果たす専用レンズ。その上に精液を1滴乗せて動画撮影すると、精子の動く様子が撮影できる。その映像を送信すると、精子の濃度や活動の活発さを示す運動率を測定してデータが送り返されてくる……。

 リクルートライフスタイルが開発したアプリ「Seem(シーム)」は精子のセルフチェックが目的だ。電器店やネット通販大手などで販売している専用レンズなどのキット(4980円)を使って撮影すると、すぐに結果がわかる。WHOの定める精子の濃度と運動率の下限の基準値が示され、自分がそれより上回っているか下回っているか、すぐにわかる仕組みだ。

 同社の男性社員20人でテストとして使ってみたところ、1人で精子が見当たらず、医療機関の検査で無精子症とわかった。「ちょうど妊活中で、すぐに治療方針をたてて半年後に妻が妊娠したそうです」と同社の広報担当者は話す。

 不妊の半分は男性に原因があるとされるが、まだまだ認識は低い。男性不妊の主な要因には、精子の数が少ない「乏(ぼう)精子症」や精子がない「無精子症」、精子の運動率が低い「精子無力症」がある。

 妊活の初期段階の多くは、女性が取り組む一方、男性の意識が本人にも医療者にも乏しい場合がある。リクルートライフスタイルは、妊娠しやすい排卵日を自分で簡単にチェックできる検査薬を販売する武田コンシューマーヘルスケアと組んで、子どもを望む夫婦やカップルが共に妊活に取り組むことを支えるプロジェクトを今月15日から始めた。

 アプリ開発には、独協医大埼玉医療センターの岡田弘院長もアドバイスした。岡田さんは「そもそも精子の数は35歳以降、運動率は40代以降、低下していく。医療機関の検査の代わりになるものではないが、自分の精子について関心を持つツールとして利用して欲しい」と話す。

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アップル社が研究サポートシステム

 ドライアイをチェックするアプリもある。順天堂大眼科の猪俣武範助教らのチームが開発している「ドライアイリズム」だ。まばたきの回数や、まばたきの仕方を測定し、ドライアイの疑いがあるかどうか判断するというものだ。ドライアイにつながるような生活習慣がないかや、ドライアイの原因の一つとも考えられている「うつ」のチェックもできるという。

 「ドライアイリズム」は、アップル社が開発したアイフォンアプリの「ひな型」を利用して作られた。アップル社が3年前にシステム提供を始めた、医学研究をサポートする「リサーチキット」というひな型だ。国内では、順天堂大のチームを含め大学病院などを中心に14の研究開発がこのひな型を使ってアプリを提供している。

 研究機関がアプリ開発に乗り出すのはワケがある。多くのスマホユーザーにアプリを使ってもらうことで、従来の臨床研究よりもより簡単に、素早く広範囲にさまざまな患者のデータを集めることができるからだ。ひな型を使うことで、アプリ開発のコストを抑えるメリットが期待できる。利用者側は、自分の健康や病気についての知識を高め、改善に向けた判断のきっかけになる。

 一方、アップルはこうしたシステムの提供について、医学研究に貢献するため収益を目的にせず取り組んでいるという。「さまざまな研究に役立ててほしい」と広報担当者は説明する。集積した個人データは、研究者には渡るが、「アップルには渡らない」という。

 聖路加国際大の星野絵里講師らが開発した「Babyうんち」もアップル社のリサーチキットを利用したアプリだ。生後2週間から1カ月の赤ちゃんのうんちの色をチェックして、胆道閉鎖症の可能性の有無を確かめる。

 この病気は、生まれつきか、または生後間もなく、肝臓と腸をつなぐ胆管が詰まり肝臓から胆汁が腸に流れなくなる。放っておくと肝硬変や肝不全になるという。頻度は1万人に1人とされ、うんちの色が白っぽかったりすると疑いがある。母子手帳にも判断のために写真が掲載されているが、より簡単に自動識別できるシステムの開発が狙いだという。このほか、リサーチキットを利用したアプリとしては、広範囲で迅速な調査が必要になる「インフルエンザレポート」や糖尿病やぜんそくなどを対象にしたアプリがある=リスト参照。

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 もちろん課題もある。ユーザーがスマホアプリの利用者という特定の集団や年齢層に偏る可能性がある点だ。また、あくまでいまはデータ採取や自己管理の一環だ。説明にも「医療行為ではない」などと念押しの説明をしているアプリもある。

 より本格的に、スマホアプリを医療機器として承認することを目指しているのがITベンチャー企業の「サスメド」(東京)だ。アプリを使った不眠症の睡眠薬依存の脱却を目指した治療法開発に取り組んでおり、医療機器としての承認に向けた臨床試験を国内で初めて進めている。臨床試験(治験)には、日本睡眠学会の認定医療機関のほか、複数の医療機関が参加、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の監督のもとに進め、医薬品と同じ水準の治験内容だという。

 承認されれば、科学的な裏付けのある治療として認められたことになる。診療ガイドラインに盛り込まれることも期待できる。

 医師でもあるサスメドの上野太郎代表取締役は「現在、世に出ているヘルスケアアプリとは異なり、病気の治療を行うための医療機器として、厳密に医学的な検証を進めている。医療行為は、法規制のもとで臨験が実施されているかが重要になる」と話している。

<アピタル:医療と健康のホント>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/honto/

(服部尚)

服部尚

服部尚(はっとり・ひさし) 朝日新聞記者

1991年入社。福井支局をふり出しに、東京や大阪の科学医療部で長く勤務。原発、エネルギー、環境、医療、医学分野を担当。東日本大震災時は科学医療部デスク。編集委員を経て、現在は科学医療部記者。