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150カ国以上で猛威を振るった史上最大規模の身代金要求ウイルス「ワナクライ(WannaCry:泣きたくなる)」。メールなどから感染すると真っ赤な画面が現れ、3日以内に300ドル(約3万4千円)をビットコインで払うよう要求。文書や画像などのファイルが開けなくなる。
昨春広がったウイルスは、世界で23万台以上のコンピューターに感染。日本でも日立製作所などが被害を受け、英国では千台以上の医療機器が制御不能となった。
170ページ超の起訴状(https://www.justice.gov/opa/press-release/file/1092091/download)によれば、男は北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」所属のパク・ジンヒョク容疑者。北朝鮮政府によって雇われたプログラマーで、朝鮮人民軍偵察総局サイバー部隊「110研究所」傘下にある中国・大連の北朝鮮系フロント企業に配属された人物だ。米国がサイバー攻撃で北朝鮮の関係者を訴追するのは初めてだ。
男が関与したとされるサイバー攻撃は、「ワナクライ」だけではない。
2014年に北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長暗殺を題材にした映画「ザ・インタビュー」を製作したソニー・ピクチャーズエンタテインメントに激しいサイバー攻撃を仕掛け、コンピューター数千台を破壊。映画作品や俳優のプライベート情報も盗んだ。米防衛産業ロッキード・マーチンの高高度迎撃ミサイル(THAAD(サード))担当者にもサイバー攻撃を試みていた。
さらに、就職面接の問い合わせを装ったメールで、バングラデシュ中央銀行のシステムを感染させ、8100万ドル(約92億円)を盗む「サイバー強盗」も実行。金の足どりはフィリピンで消えた。
米司法省は9月、パク容疑者の起訴を発表した。起訴の日付は6月8日。トランプ大統領と金正恩氏による初の米朝首脳会談の数日前で、会談を考慮して発表日をずらしたとみられる。
米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は、起訴発表に合わせた声明で訴えた。
「本日の発表は、世界でのサイバー攻撃の背後にいる悪意ある輩(やから)や国家をあばき、やめさせるためだ」
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様々な手法でサイバー戦を挑む北朝鮮だが、米国も防御一辺倒ではない。目に見えないサイバー空間で、熾烈(しれつ)な争いが繰り広げられている。
猛威を振るった北朝鮮発の身代金要求ウイルス。その意外な「ルーツ」が明らかになりました。アメリカ政府が進める、極秘のサイバー戦の実態に迫りました。
動いた「発射の寸前」作戦
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