【動画】福井・滋賀県境に残る明治時代の鉄道トンネル=八百板一平撮影
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 4月に福井県の敦賀支局に赴任してから、滋賀県との県境にある柳ケ瀬線(旧北陸線)のトンネルは気になる存在だった。今回の取材を通じて、人々が消えた鉄路に寄せる思いの一端を感じることができた。

 国鉄の機関助士だった中瀬正さん(83)と、桐畑民雄さん(84)には、蒸気機関車(SL)に乗っていた当時の苦労話を聞いた。

 乗務したときは、ボイラーの熱などで大量の汗をかく。そのため、塩の入った小箱を渡されたこと。急勾配が続く難所を走るとき、沿線の神社に向かって「無事に乗り切れますように」と祈ったこと。敦賀駅を出発し、柳ケ瀬トンネルの手前にさしかかると、虫が大量発生して、SLの車輪が空回りしやすい場所があったこと――。身ぶり手ぶりを交えた話はどれも具体的でおもしろく、ずっと聞いていたいと思った。

 冬の雪も手ごわい存在だったようだ。柳ケ瀬駅の駅員だった眞杉繁さん(85)は、雪が積もるたびに転轍機(てんてつき)の周りの除雪に励んだという。線路の下に石油ランプを置いてスコップを動かした。「白い雪をよけているのに、すすで真っ黒になってしまうんや」

 子どもの頃に、線路のそばの土手で、列車に乗務する父からの贈り物を受けとった平川初枝さん(74)の話は、映画のワンシーンを見ているようで、とりわけ心に残った。

 取材の最後に小刀根トンネルを再訪した。1881年に完成した全長約56メートル、高さ約6・2メートル、幅約16・7メートルの小さなトンネルだ。

 敦賀市などがまとめた冊子によると、「デゴイチ」の愛称を持つ蒸気機関車D51は、このトンネルのサイズに合わせてつくられたという。壁面に敷き詰められた黒くなったれんがや岩肌を眺めていると、闇の向こうから、かすかに汽笛が聞こえるような気がした。

 2022年度末には、北陸新幹線が敦賀市まで開通する予定だ。新しい鉄路はこの街と人々に何をもたらすのか。取材を続けたい。(八百板一平)

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