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 誰が、どのように作った商品なのか、高感度な消費者に生産の背景が厳しく問われる時代になっている。優れた手仕事への敬意、持続可能な生産方法によって付加価値を生み、支持を集めるブランドをイタリアに訪ねた。

 フィレンツェから車で2時間のウンブリア州ソロメオ村。丘陵地にブルネロ・クチネリの店や職人学校、劇場などがあり、平野部にも本社と工場が一体となった建物などが点在する。

 世界に約1700人いる従業員のうち、およそ1千人が本社で働く。新製品を開発する工場では、生地選びやニットの袖つけなど、それぞれのチームをリーダーの熟練工が仕切る。

 縫製のスペシャリスト、デニズ・スパテルナは生地にチェーン状の小さな金具を縫い付ける高度な作業をしていた。「モニーレ」と呼ばれる、パンツやジャケットの飾りだ。「31年働いているが、いつも美しいデザインにため息が出る」。開放的で光が差し込む職場や、ブランドが掲げるサステイナブルな精神にも触れ、「この会社で働けるのは幸せ」と語った。

 本格的な生産は州内を中心に信頼する300超の工場に発注するが、納品された服は不作為抽出ではなく、1点1点すべてをチェックして品質を管理している。

 次代を担う人材の育成にも力を注ぐ。13年に開校した職人学校ではニットの縫い合わせやガーデニングなど、五つのコースで約60人が学ぶ。学費は無料で、月800ユーロの給与も支給され、卒業後はブルネロに入社するか、ほかで仕事をするかを自由に選べる。昨年10月からテーラリングコースで学ぶ22歳のニコラ・アンブロージは「手作業で作る服の着心地のよさや美しさなどを学んだ」と話した。

 ブランドは1978年にペルージャ近郊の50平方メートルの1室で創業。色鮮やかなカシミヤニットで名を上げた。85年、大自然に囲まれたソロメオ村に移転し、購入した古城を修復するなど村を再生してきた。

 村の人口は約500人。うち250人ほどがブルネロ・クチネリで働く。学生や従業員の配偶者、リタイアした人も多く、村民のほとんどが関係者だという。

 最高経営責任者(CEO)のブルネロ・クチネリは「工場労働者だった父は貧しく、生家は電気も通っていなかった」。そんな経験もあり、従業員の給与はイタリアの一般的な企業より2割ほど高いという。

 セーターやカーディガンで30万円以上する商品も並ぶが、北米と欧州の富裕層を中心に支持され、昨年は全世界で約650億円の売り上げを記録。クチネリは「決して安くはないが、何代にもわたり受け継がれるものを作っているうえ、関わる全ての人に正当な対価を支払っている結果だ」と語った。

「履く人の人生の質も」

 靴メーカーのサントーニは、ローマから車で2時間半のマルケ州コッリドーニア市に本社兼工場を構え、約650人が働く。靴の産地で、パーツごとに外注するメーカーも多いなか、サントーニは全商品の全工程を自社内で完結させているという。

 社内の電力は工場と駐車場の屋根に設置された太陽光パネルでまかない、雨水も皮革の染色などに再利用。化学染料は使わない。

 ブルネロ・クチネリと同様、社内には職人を育成する学校がある。未経験の新人を採用して持続可能性と品質を最優先する精神を徹底して教えるという。担当者は「一人前になるまでに5、6年を要する。中途採用を希望する人も毎日のように来るが、外部で働いた経験がある靴職人は、我が社の方針を理解するのが難しく、雇えない」。

 1日の生産量は男性用が300足、女性用とスニーカーが各500足。ただ、ソール交換が可能で長年履けるグッドイヤー・ウェルト製法の高級ラインは職人チームが手作業で縫い合わせ、美術大出身のカラリストが筆を持ち、4~5時間かけて特徴的なグラデーションなどの色づけを担う。手の込んだ靴は完成まで6週間。日本では税込みで約16万円~79万円になる。

 欧州では老舗とはいえない1975年の創業ながら、ここ数年の売り上げは2ケタ成長を続け、17年は約100億円に。2代目社長のジュゼッペ・サントーニは「高品質は当然だが、その工程で地球や働く人を大切にしているので、履く人の人生の質も上がる。だからこそ、受け入れられている」と力説する。

人間らしい生活を地方で

 今年、英ブランド・バーバリーが横流しやブランド価値の低下を防ぐため、売れ残り商品を大量に焼却処分していたことを批判され、方針の見直しを迫られた。ファッション業界の一部では慣習になっているとされるが、サントーニは「原価率が6割の我が社には無縁。もったいないし、売れる分しか作らない」。クチネリも「地球環境や人類にとってマイナスになることは絶対にしないという精神も、ブルネロ・クチネリのブランド価値だ」と語った。

 サントーニがマルケ州に本社と工場を置くのは、歴史と品質管理を重んじるため。一方のクチネリは「人間らしい生活ができる。現代はインターネットで情報が共有でき、流通も発達している。日本の製造業も地方に本拠地を置くべきだ」と説く。(後藤洋平