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(25日、大相撲九州場所千秋楽)

 支度部屋に戻っていた貴景勝は、高安の取組が映るテレビに背を向けた。「優勝決定戦になると思って集中した。負けてくれと思えば、自分がぶれる」。相手のことは一切関係ない。自分は自分という、恐ろしいまでの自制心が、この22歳の新鋭には宿っている。

 さすがに緊張したという自分の一番。突き放したあと、引いてしまった。しかも前日のように右足が滑って流れた。「決してほめられた内容じゃなくて弱い自分が出た」。真価を発揮したのはそこから。すぐに前に走って体勢を復元し、押した。速い反転攻勢に錦木は腰高。はたき込んだ。

 小学校で相撲を始め、ひたすら押してきた。頭から45度の角度でぶつかり、相手を起こす。こんな稽古をもうどれだけ繰り返してきたのか。身長は175センチで止まった。食べに食べて出来上がったずんぐりとした体形は、押し相撲に最適なものになった。

 「今さらまわしを取る相撲は覚えられない。神様がくれた体。生かしていきたい」。横綱不在の今場所。誰もが分かりきった取り口で勝ちきる。土俵をわかせたのは、その爽快感だ。

 お決まりの言葉の一つは「悔いのないようにやりたい」。勝敗にとらわれず、こだわるのは中身。支援者に囲まれ賜杯(しはい)を抱いても、表情は緩まなかった。「笑う必要はないでしょう。うれしいはうれしいけど」。角界を引っ張っていく新鋭の飽くなき挑戦は続く。(隈部康弘)