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 残業時間の上限規制や勤務間のインターバル制度など、2019年は「働き方改革」が加速する年になりそうです。とはいえ、スマートフォンなどの発達で仕事とプライベートが溶け合う時代。ただでさえ「休み下手」と言われる私たちが人間らしく働き、休むためにはどうしたらいいのか。GLOBEの特集への反響を紹介しながら、「休み方改革」について、年の初めにみなさんと考えます。

仕事と休み融合・到底無理

●「公立中学で美術を教え、3年の担任をしています。勤務時間内に仕事が終わることはありません。生徒の成長のために授業や行事の準備に時間をかけたいところですが、年々『仕事』の範囲は肥大化しているように感じています。2年前まで3年間、海外の日本人学校に赴任しました。現地で出会った異業種の人たちは超多忙なのに休日はトレッキングに釣りにと切り替えが上手。学校での問題を引きずることも多かった私ですが、頭を切り替えて、その時間を楽しむことを学びました。今は休日には美術館やワークショップに出かけることが多いです。『授業で使えないかな』とアンテナは張りますが、引きずるのとは違います。仕事も趣味も、互いに生かし合える人生にしたいです」(千葉県・中学校教師女性 35歳)

●「勤め先の外資系広告代理店は、仕事と休みを融合させるユニークな取り組みをしています。例えば通常、午前10時の出勤時間が、水曜だけは『クリエーティブアワー』で午後2時まで。私は、リフレッシュも兼ねて話題の映画を見たり、美術館に行ったり。チケット代も領収書があれば会社が負担してくれます。2018年は6~9月の最終金曜の退社時間を午後3時にする『サマーアワー』も実施。大切なのは、新たにできた時間をどう使うか。職場では本業とは別の肩書を持つことを奨励しています。保育士の資格を取り、名刺に明記している同僚も。副業を生かして社内プロジェクトを立ち上げる試みも始まっています」(東京都・広告代理店勤務 伊藤佑一郎さん 32歳)

●「子どもがいて、土日は家族の予定が入っているので、平日に頑張って仕事を終わらせるようにしています。週末は会社からの貸与パソコンを家に持ち帰ってはいますが、メールは見ないようにしています。仕事とプライベートを融合するワーク・ライフ・インテグレーション(WLI)が進んでいくというものの、会社ではチームで仕事をすることがあるので、家や出先での『リモートワーク』には限界があります。事務的な仕事ならいいですが、上司へ承認の印鑑を求めるために資料を回す仕組みが残っているので、結局は会社にいないと仕事が進まないです」(千葉県・電機メーカー勤務男性 35歳)

●「私の場合は、仕事や私生活を自分の力でコントロールするなど到底無理でした。IT企業で顧客コンピューターシステムの運用・管理をしていましたが、病気のため9年前に退職を余儀なくされました。システムに何かあればすぐに顧客の会社に呼び出され、365日24時間拘束されているようなもの。過労死ラインの残業時間など皆、当たり前でした。ワーク・ライフ・バランス(WLB)など、今でもIT業界では単なるスローガンでしょう。医師の過労が問題視されています。システムの『医師』だった私たちもほぼ同様。働き方改革で、業種や職種を考慮せず、十把一絡げに扱うなら意味がないと思います」(滋賀県・ライター男性 55歳)

「山ごもり休暇」で意識変化

 「働き方改革」が叫ばれる前から、ユニークな「休み方改革」に取り組んできた会社もあります。ソフトウェアを手がける「ロックオン」(大阪市北区)が設ける「山ごもり休暇制度」は、年に1度、9日間の連休を取るのが115人の全社員の「義務」になっています。休暇中はメールも電話も仕事関係の連絡は禁止です。休暇の使い方はさまざまで、アフリカ旅行や趣味の資格取得、「断捨離」「育児に専念」という人もいます。

 導入は2011年。若い社員の多いベンチャーだけに「休んでいる暇はない」という空気が強く、歓迎ムードはなかったそうです。人事課長の桐生(きりう)明子さん(36)は「目の前の仕事に夢中で、遊ぶために有休を取るという発想がなかった」と言います。

 それでも導入を決めた会社側には「しっかり休んでほしい」という思いのほかに、ある狙いがありました。社員は計画的に休暇の時期を考えて仕事を進めるし、トラブルも含めて同僚に引き継ぐことになる。そのため、各自が抱え込んでいた仕事が「見える化」され、マニュアルやシステムが構築されて効率的に動けるようになるのではないか――。

 当初は「引き継ぎ書をつくるために残業する社員」もいたものの、普段から引き継ぎを想定して情報を共有するシステムが次第に構築されていき、急な病欠や育児休暇、新入社員教育などへの対応にもメリットを生んでいるといいます。

 「何より、社員が主体的に休むことも考えるようになり、効率的に仕事を進めて休みも充実している人はかっこいいという空気が生まれてきた」と桐生さん。「山ごもり」導入前には2割程度だった有給休暇の取得率も18年には6割に上がり、残業時間も激減しました。

睡眠6時間以上なら「報酬」

 毎晩6時間以上睡眠をとると「報酬」をもらえる会社もあります。オーダーメイドの結婚式をプロデュースする「クレイジー」(東京都墨田区)。仕事とプライベートの境目がなくなり、過労死が社会問題化するなか、健康を維持してもらい、組織の生産性を高めようと2018年10月に始めました。

 就寝時にスマホを枕元に置き、寝具メーカーの睡眠分析アプリで睡眠データを記録。1日6時間以上の睡眠を週5日以上取ると、会社から1日につき100ポイントが付与されます。100ポイント=100円に換算し、社屋内の店でおにぎりなどを買えます。週7日達成で1千ポイント、1カ月間毎日計測して1千ポイントがもらえるなど「報酬」は年間最大6万4千ポイントに。参加は希望制ですが、社員85人中63人が参加しています。コストはかかるものの、「睡眠不足で心身のバランスを崩したり、辞められたりすることを考えれば必要な投資」と広報の五来未佑さん(28)は言います。会社はワーク・ライフ・インテグレーションにも取り組んでおり、旅先などで仕事をしつつ休みを取るといった「ワーケーション」制度があり、配偶者の転勤先と東京を行き来しながら働く社員もいます。

充実した休日から革新は起こる 高橋俊介・慶大特任教授(経営人事学)

 仕事とプライベートを融合するワーク・ライフ・インテグレーション(WLI)という考え方は、10年以上前から欧米などに広まっています。いまだにワーク・ライフ・バランス(WLB)と言っている日本は対応が遅れているなと思います。根底にあるのが、家族も含め、会社中心に生活が回る特殊な社会。そんな働き方は、欧米では一握りのエグゼクティブだけです。

 有給休暇を100%取得するのが一般的なフランスでは、バケーションの間、その社員の仕事は組織として完全に止まる。日本なら他人への迷惑を気にしますが、フランスでは顧客も「あの人いま休みなんだ。じゃあ後で」となる。みんなが休みをとるから、「お互い様」なのです。

 人間は元々、オンとオフをはっきり分ける動物ではありません。狩猟採集時代に「狩りだ、仕事にいくぞ!」という人はいなかったでしょう。獲物をつかまえて戻ったら、みんなで踊る。どこまでがオンか、オフか、線引きはなかったはずです。

 ただ、WLIは単に仕事と休みの境界をあいまいにするという意味ではありません。仕事をしてばかりでは、仕事に必要な能力も身につかない。脳にはクリエーティブな能力もあれば、感情をくみ取ったり、論理的に考えたりする能力もある。特定の能力ばかり使い続けていると、柔軟さを失う。バランスよく脳を発展させるため、休みが必要なのです。

 だから、休日にどう遊ぶかは重要な問題。昔は金をかけず能動的に楽しむクリエーティブな遊びがあふれていましたが、今はプロが設計した遊びに金を払って遊ばせてもらっている。もっと能動的に遊び、仕事も充実させる。そんな休み方が求められている。企業はどうすればいいか。社員をコントロールするのではなく、成果と貢献度さえ見ればいい。会社の言う通りに動く社員だけではイノベーション(革新)は起こせません。そして、企業には、成果と貢献度をきちんと測る仕組みの確立が求められます。

◆玉川透、大室一也、市川美亜子が担当しました。

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