東名あおり、懲役23年求刑「娘に一生消えない傷」

飯塚直人 山下寛久
【動画】東名高速で「あおり運転」をされたワゴン車の夫婦が亡くなった事故。裁判の焦点をわかりやすく解説=根本寿彦撮影
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 神奈川県大井町の東名高速で昨年6月、一家4人が乗るワゴン車を「あおり運転」で停車させ、大型トラックによる追突事故で夫婦を死なせたなどとして、危険運転致死傷罪などに問われた石橋和歩被告(26)=福岡県中間市=の裁判員裁判の第6回公判が10日、横浜地裁(深沢茂之裁判長)であった。検察側は論告で「娘2人は両親を目の前で奪われ、一生消えない心の傷を負った。娘2人は両親の声を聞くことも、抱きしめてもらうこともできない」などと述べ、懲役23年を求刑した。

 これに先立ち、被害者側3人の意見陳述が行われ、事故で息子を亡くした萩山文子さん(78)は「何という罪になったとしても、私は息子夫婦が被告人に殺されたとしか思えない」と述べた。危険運転致死傷罪の上限は懲役20年で、石橋被告は器物損壊罪などでも起訴されているため、最高で懲役30年まで求めることができる。

 事故では自動車整備業の萩山嘉久さん(当時45)=静岡市清水区=と妻友香さん(当時39)が亡くなった。意見陳述は、自らもけがを負った高校2年生の長女(17)から始まり、検察官が代読。「どれだけ涙を流しても両親に会えない。両親は想像できないぐらい怖かったと思う。被告人を厳罰に処してほしい」とした。

 続いて、被害者参加制度を利用して公判に参加してきた文子さんが法廷に立ち、涙声で時折言葉を詰まらせながら、「被告人は1年半どんな思いで生きてきたのか、人間らしい言葉で聞かせてほしい。でも、裁判で聞くことはできなかった」と訴えた。

 友香さんの父親(73)も法廷で意見陳述。「子の成長を楽しみにしており、無念だったに違いない」と述べ、「2人の命の重さに見合うだけの長い時間、刑務所に入れてもらいたい」と求めた。

 検察側の主張によると、石橋被告は昨年6月5日夜、パーキングエリアで嘉久さんから駐車方法を注意され、「停車させ、車から降ろして文句を言おう」と決意。友香さんが運転するワゴン車の前に割り込み、減速して接近させる妨害を4度繰り返した末、追い越し車線で停車させ、直後に追突事故を引き起こしたとされる。判決は14日に言い渡される。

 また、この約1カ月前には山口県下関市で、約2カ月後には山口市で、計3台の車に同様の妨害をして運転者を降車させようとしたり、他人の車を蹴ったりしたとして、強要未遂罪と器物損壊罪にも問われている。

 東名高速の事故について、石橋被告は5日の被告人質問で「申し訳ないことをした」と謝罪した。弁護側もおおむね事実関係を認めているが、危険運転致死傷罪は「法律の条文上、車の走行中が前提。停車後に事故が発生した本件には適用できない」として無罪を主張している。(飯塚直人、山下寛久)

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