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 全国的に減少傾向に転じていた還付金詐欺の被害が、愛知県で再び増え始めている。一部の金融機関で広がった「振り込み制限」の対策が奏功しているが、それをすり抜けるような新たな動きが表面化しており、警察は警戒を強めている。(田中恭太、申知仁)

 県内では昨年10月、還付金詐欺の被害が急増した。被害件数は1カ月間で50件に上り、総額で4473万円がだまし取られた。1~9月は多い月でも15件。2017年の年間被害額が5388万円だったことからみても、10月の被害は突出。11月もその傾向は続いており、29件計約2407万円の被害があった。

 目立ったのは、都市銀行の口座が狙われたとみられる被害だ。県警は犯人側が、還付金詐欺対策の一環として「振り込み制限」に特に力を入れる地方銀行、信用金庫の口座を避けているとみている。

 この振り込み制限は、一定期間ATMでキャッシュカードを使った振り込みをしていない高齢者を対象に、ATMの取引を制限するものだ。県内は全ての地銀、信金が、主に70代以上の全顧客を対象に導入している。

 県警によると、10月に被害にあった54口座のうち、45口座は振り込み制限が手薄な都銀などのものだったという。最近は犯人側が被害者に口座を開設している金融機関をたずね、地銀などの口座と知ると、「そこは使えないので別のところはないですか」と、他の口座を確認するという。

 朝日新聞の取材に応じた、10月に被害にあった70代男性によると、犯人側は電話で具体的な都銀の名前を挙げた上で「口座があればそこに還付金を振り込みたい」と言ったという。

 都銀でも振り込み制限をしている銀行はあるが、複数の都銀は、犯人側に対策を取られるとして詳しい制限対象は明らかにしていない。捜査関係者は「地銀、信金に比べると、(都銀は)対策の網の目が粗い可能性があり、狙われているのでは」とみる。

 大手銀行関係者によると、地銀、信金のような一定の年齢層全体が対象ではなく、過去の被害傾向などから詐欺かどうかを判断しているという。捜査関係者は「全国規模の銀行は顧客の利便性を考慮して、地銀、信金のような幅が広い対策がとりにくいのでは」と話す。

還付金詐欺、知っていたのに

 「自分のとろさ加減にあきれる」。被害にあった名古屋市緑区の60代男性はため息をつく。還付金詐欺は知っていたが、それでも気づくことができなかった。

 理由の一つは、電話の男が自分の名前を知っていたことだ。区役所職員を名乗る男から電話がきたのは昨年10月30日朝。男は男性の氏名を口にした上で、「8月5日くらいに手紙を送りましたが、返信が来ていません」「医療費の還付金が4、5万円たまっています。手続きの期限は今日です。口座はどこですか」と尋ねたという。

 男の指示の仕方も巧みだった。男性がATMの前から連絡すると、男は「今から言う数字を入力してください」「一番下のボタンを押してください」。金額やボタンの名称ではなく、入力する数字やボタンの位置で指示された。言われるがまま従ってしまった男性は「振り込みをしている意識がなかった」と振り返る。

 ATMも男性が行きやすいところを具体的に指定された。持っている口座を尋ねられ、都銀の名を告げると、「中京競馬場にATMがあるようです」と、男性宅からほど近い無人ATMを案内された。

 ATMに着いたが、偶然、この日は休業日だった。電話は銀行職員を名乗る別の男に代わり、到着を伝えると「○○駅にある○○銀行のATMでも手続きができるようです」と、男性の最寄り駅の隣駅にある別の都銀ATMを指定された。

 男性が詐欺だと気づいたのは、計22万円を振り込んで帰途についてからだ。「さっき押したのは、振り込みのボタンではなかったか」。慌てて区役所に確認して、うそとわかった。娘には「テレビや新聞で存在を知っていたはずなのに」としかられた。「千円、2千円ならともかく、4、5万円入れば生活に余裕が出ると思ってしまった」

還付金詐欺被害を減らすには

・ATMで還付金は受け取れない。「ATMの前で手続きを説明する」「暗証番号を教えてください」は詐欺。家族で共有する

・公的機関を名乗る電話があったら、一度電話を切って、改めて電話をかけ直して確認する

・携帯電話で話しながらATMを操作する人を見たら声をかける

・還付金詐欺とみられる電話があったらすぐに110番通報する。近くに「キャッシュカードの引き取り役」などが待機している可能性が高い。警察が捜査員を派遣して、検挙につながることも

     ◇

〈還付金詐欺〉 役所の担当者などをかたって、税金や保険料、医療費の還付があると高齢者らに電話をかけ、「ATMで受け取りができる」とうそをついたうえで、「こちらから振り込むので『振り込み』ボタンを押して」などと指示し、逆にATMで金を振り込ませる詐欺の手口。

 全国では2017年の1年間で3107件計約35億8500万円の被害があった。対策が広がったこともあり、前年比で約6億7千万円減った。