[PR]

 街の話題を取り上げた「へえー」と感じる記事に出会うと、「どうやって探してくるのだろう」と気にかかる。記者が北九州に赴任して2年余。ねたましさの入り交じった気持ちで手に取ってきたのが地元の無料情報誌「雲のうえ」。作っている人たちを訪ねた。

 北九州市の魅力を内外に発信するねらいで、年2回発行される。予算は市の補助と広告収入が半々。東京都、福岡市内の書店、北九州市内の道の駅、飲食店などに置かれている。

 各号で一つのテーマを掘り下げ、工業都市らしい製鉄所や工業学校、海、山、島の自然や甘味、うどんなど食べ物の特集も。11月に出た最新号は「水」。店や場所を多く紹介する号でも焦点をあてるのは、そこに住み、働く人たちの姿だ。

 製鉄所の忍者と呼ばれた「高炉鳶(とび)」ら強い印象を残す職業人だけでなく、関門海峡を渡る船で生まれたという観光案内の女性や、看板娘を射止めて2代目になったうどん屋の店主など、市井の点描が味わい深い。

 3人の編集委員はみな東京在住。その1人、画家の牧野伊三夫さん(54)は北九州の出身で高校卒業後、地元を離れた。とかく外からは「危険な街」と見られ、出身者はそのイメージに乗って自嘲気味に故郷を語りがち。シャイな気質からか、住んでいる市民も我が町の良さをうまく伝えられずにいる。

 そんな様を見てきた牧野さんは「北九州の素顔」を伝える誌面にしたいと考えた。「角打ち」をテーマに据えた2006年の創刊号はまさにそんな1冊だ。

 昼ひなかに酒を飲む角打ちは「街の恥部」のように見られることもあった。牧野さんは「工場の夜勤明けの労働者が家に帰る前に立ち寄る憩いの場。鉄のまちの文化だ」と訴えた。

 当時、補助を出す市の担当者だった吉田茂人・市交通局長は「すごい反響があった。角打ちはこれが一つのきっかけでブレークし、観光資源になった」と振り返る。

 ネタ集めには地元に根を張る人たちの協力がある。市職員のうち約8千人が見るネット掲示板でテーマを告知すると、数百件に上る情報提供がある。「雲のうえのしたで」というSNSを展開する熱心なファンからも耳よりな話が届く。集まった情報を元に牧野さんら3人の編集委員が丹念に下調べして、取材先を選ぶ。

 2月に発行予定の「焼き鳥」の号のリサーチに一晩同行した。門司港地区の店を手分けして訪ねること計6軒。串を注文し、店主や常連客と語らう。リサーチは1週間に及んだという。

 アートディレクターの有山達也さん(52)は「僕たちが素敵だと感じた名もなき人、地元で気付かない街の良さを紹介したい。それには、やっぱり手間がかかる」と話す。

 ライターのつるやももこさん(43)は読者欄も担当する。「何もないと思っていた故郷を自慢したくなった」。そんな投稿にうれしく目を通している。「自分自身、出身地の埼玉を見直すきっかけになった。宝物のような仕事ですね」。煙の立ち込める焼き鳥屋のカウンターでそうつぶやいた。(奥村智司)