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 トルコとロシアが関係を深めている。11月には両国を結ぶガスパイプラインの海底工事が完了。シリア内戦でも歩調をそろえる。2015年11月のトルコ軍によるロシア戦闘機撃墜事件で険悪化していた両国が、互いの戦略を支え合うようになったのはなぜか。(イスタンブール=其山史晃、モスクワ=喜田尚)

 「始めよう」

 天然ガスパイプライン「トルコストリーム」の海底工事完成式典が11月19日、イスタンブールで行われた。壇上でトルコのエルドアン、ロシアのプーチン両大統領が声をかけると、中継で結んだ黒海上の大型作業船から、パイプラインの最後の連結部分が海底へ下ろされた。

 パイプラインはロシアからトルコへ、黒海の海底930キロを走る。エルドアン氏は「トルコは他国から圧力を受けてロシアとの関係を判断しない」と、対ロ協力に批判的な欧州連合(EU)や米国を牽制(けんせい)した。「天然ガスをどうまかなうか各国の決定は尊重されねばならない」

 トルコとロシアにとってトルコストリームの意味は2国関係にとどまらない。

 トルコストリームは、ロシアが同じく黒海対岸のブルガリア経由で中南欧へのガス輸出を目指した「サウスストリーム」計画の復活版だ。ロシアは14年にウクライナ南部クリミア半島を併合したことで欧米と対立。このためEUが加盟国のブルガリアに圧力をかけ、サウスストリームは頓挫している。ロシアはその代替をトルコに求めた。

 エネルギー産業はロシア経済の屋台骨であり、その輸出は外交戦略と一体で進められきた。ウクライナ危機後のロシアは、各国と個別にパイプライン協議を進め、対話の回路を取り戻そうとしている。EUはロシアへのエネルギー依存を警戒するが、個々の加盟国はより安定した天然ガス供給を得たいのが本音だ。

 パイプラインはトルコを経てさらにギリシャ、ブルガリアの国境へ延びる。延伸をめぐる外交は再び活発化。イタリアのコンテ首相が10月末に訪ロし、ギリシャのチプラス首相も12月7日、プーチン氏と会談した。ブルガリア、セルビア、ハンガリーも関心を示す。

 ロシアも今度は「サウスストリームのようにEUが横やりを入れないことが絶対条件だ」(ラブロフ外相)と強気を崩さない。

「ウクライナつぶし」

 ロシアから欧州へのガスパイプラインでは、バルト海を通ってドイツに向かう「ノルドストリーム2」計画が波紋を呼んでいる。11年に開通した「ノルドストリーム」に続くものだが、シェールガスで欧州市場への参入を狙うトランプ米大統領は経由地のドイツを「ロシアの人質になった」と批判する。

 黒海やバルト海経由のパイプラインによって、従来のパイプラインが走るウクライナのガス通過料収入が大幅に減るため、「ロシアの本当の狙いはウクライナつぶし」と言われる。ドイツはロシアのウクライナ介入を批判する一方でパイプラインを受け入れる矛盾を指摘され、苦しい立場だ。

 黒海のパイプラインでは、ロシアは経由地にトルコを選び、こうした問題を回避した。トルコはウクライナをめぐる対ロシア経済制裁に加わっていない。

 トルコにとっては、欧州向けエネルギー供給のハブになる利点がある。プーチン氏は式典で「トルコストリームはトルコの地政学的な立場を強める」と話した。

3年前には関係悪化、転機は…

 トルコストリームの海底工事完成式典から5日後、トルコ軍機がシリアとの国境付近でロシア軍戦闘機を撃墜した事件から3年を迎えた。事件では兵士1人が死亡。ロシアが輸入規制など報復措置を連発し、両国関係は極端に悪化した。

 それを劇的に転換させたのは、シリア内戦をめぐる歩み寄りだ。国連主導の協議が停滞するのを横目にアサド政権を支援するロシアとイラン、反体制派を支えるトルコが両者の和平協議を主導。異なる戦闘勢力への影響力を背景に一定の停戦を実現させ、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する掃討作戦が進んだ。

 トルコは、敵視する少数民族クルド人の武装組織が米国の支援を受けシリア北部で支配を広げるのを止めたい。ロシアは欧米が正統性を認めないアサド政権の存続を国際的に認めさせたい。シリアで影響力保持を狙う点で利害が一致した。

「米国外し」鮮明、危うさも

 両国は9月、アサド政権が総攻撃を狙う反体制派最後の大規模拠点・北西部イドリブ県で非武装地帯の設置に合意。10月下旬、同県から大勢の難民が欧州に向かうことを恐れる独仏の首脳を招いて4カ国首脳会談を開き、「米国外し」を鮮明にした。

 非武装地帯設置は、過激派組織の撤退が条件となっている。過激派に影響力のあるトルコが排除の役割を担うと期待されているが、最終期限から2カ月近くが経っても実現していない。ロシアは水面下でトルコに「約束」の履行を求めているとみられるが、過激派の中には合意に反発し、徹底抗戦の姿勢を変えないグループもいる。

 非武装地帯周辺での政権軍と反体制派、過激派組織の小規模な衝突が増え、緊張度が増している。政権軍が攻勢に出るかどうかはロシアの判断に大きく左右される。大規模な軍事作戦になれば、同県に展開するトルコ軍との衝突に発展しかねず、両国の関係は危うさもはらんでいる。

撃墜事件後のトルコとロシアの関係

2015年9月 シリアのアサド政権軍を支援するロシアが過激派組織「イスラム国」(IS)と反体制派への空爆を開始

11月24日 トルコ軍機が「領空侵犯をした」としてロシア軍機を撃墜。機体はトルコ国境に近いシリア領内に落下

12月 ロシアが17品目にわたるトルコ産品の輸入禁止リストを決定。天然ガスパイプライン「トルコストリーム」の協議も中断

16年6月 エルドアン大統領がプーチン大統領に謝罪の意を伝え、関係正常化で合意

17年1月 アサド政権を支援するロシア、イランと反体制派を支えるトルコによる和平協議開始

5月 3カ国が政権軍と反体制派の停戦に向け、シリア西部の4地域に「緊張緩和地帯」を設置することで合意

12月 トルコがロシアから最新鋭地対空ミサイルシステムS400の購入で合意

18年9月 ロシアとトルコが、シリア北西部イドリブ県に非武装地帯を設置することで合意し、政権軍の総攻撃をひとまず回避

10月 シリア内戦でロシアとトルコが進めてきた和平協議に独仏を加えた4カ国首脳会談を開催