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 季節って不思議だ。私たちが時間に追われ、給料日や年金支給日だけを相手に、一日一日を過ごしているのに、季節は後ろの方でゆっくりと回っている。「人間さーん、そんなにあくせくしなさんなー」と言いながら姿を変えていく。

 12月に入ると事務室に、黄色の玉の入った段ボール箱や紙袋が届く。宅配便で届いたり、直接持ってこられたり。独特な香りが漂う。なーんだ? 果物ではない、野菜でもない、木の実。「柚子(ゆず)!」、あたりー。日本は四季の国。季節ごとの味や匂いがある。蕗(ふき)の薹(とう)も山椒(さんしょう)の葉もタケノコもミズブキもいい。初冬の柚子、色も匂いも味もいい。柚子の実を手にすると、「生きてる、生きてこられた、もう少し生きさせてもらおうか」と思わせる。

 おにぎり大で傷もない綺麗(きれい)ーなのもある。ほれぼれ見とれる。毎年、県外から送られてくる立派なのもある。診療所の玄関に「おすそわけ、どうぞ」と籠に入れとくと、皆さん、宝物のように一つずつ持って帰る。

 雨の夕暮れ、図書室に柚子をぎっしり入れたビニールを両手に持って立っている男の人がいた。「おやじ、10年前ここでお世話になりました。雨の中で取ったので、ぬれてます」。谷の材木屋の大西さんの息子さんだ。大西さんには診療所のあちこちの木を製材してもらった。「柚子風呂は患者さん、大喜びだ」と言うと、「ほんとですか、持ってきてよかった」と息子さん。

 辛(つら)い事情があって、診療所を辞めた職員があった。深い悩みの中に今もある。その人が家の庭に実った柚子を届けてくれた。柚子って何年経っても実を付けない木の代表。それが実った。届けられた柚子を見て、悩みが季節の巡りの中で、姿を変えていくようであって欲しいと願った。

<アピタル:野の花あったか話>http://www.asahi.com/apital/column/nonohana/(アピタル・徳永進)

アピタル・徳永進

アピタル・徳永進(とくなが・すすむ) 野の花診療所医師

1948年鳥取市生まれ。京都大学医学部卒業。京都、大阪の病院・診療所を経て、鳥取赤十字病院の内科医に。2001年12月、鳥取市内にてホスピスケアのある有床診療所「野の花診療所」を始め、さまざまな死の形を臨床から報告。鳥取市にセミナーハウス「こぶし館」を建築し26年になる。