「盛った私」撮って感動 神話時代からキラーコンテンツ
スマホのカメラで「自撮り」すれば、自分すらも感動を得るためのコンテンツに早変わり。ただし自分に見とれて、酔いしれているわけじゃない。感動はシェアした先にある。
スマホの画面。くりくりとした目の少女がアップテンポな洋楽にあわせ、英語の歌詞をリップシンク(口パク)している。ウィンクしたり、首をかしげたり。キュンとするしぐさを随所で見せる。
中学2年のゆなさん(14)が最近、スマホアプリ「TikTok(ティックトック)」に投稿した動画だ。半日で2万5千人が「いいね」した。
TikTokは昨年、10代を中心にヒット。流行語にもなった。動画は15秒と短いが、映像の色みを変えたりスローにしたり。特殊効果を組み合わせ、ミュージックビデオのような動画を作れる。
ゆなさんは90万人超のファンを抱える人気TikToker(ティックトッカー)だ。音楽に合わせて踊ったり、リップシンクしたりする動画を、毎日1本投稿している。
「コメントを読んでいるときが、一番楽しい。自分から始めて、みんなの見本になるような動画を作りたい。そのために色んな方の動画を見て、研究する日々です」
ゆなさんは事務所に所属する、いわばタレントだが、TikTokに投稿される動画に登場するのは、大半が素人だ。写真を見せ合うソーシャルメディア「インスタグラム」は、世界の「セルフィー」であふれている。
こうした「自撮り」に通じるものはスマホの登場以前からあったと、写真評論家の鳥原(とりはら)学さんは指摘する。1986年に「写ルンです」が発売され、使い捨てカメラが普及。カメラや写真を楽しむ人が増えた。95年に「プリクラ」が登場すると、女子高校生らは撮影した写真を「プリ帳」と呼ばれる手帳に貼って持ち歩き、対面やゲームセンターの掲示板で交換して集めた。「写真を不特定多数で共有したり、拡散したりするコミュニケーションが広がっていった」
2000年にはプリクラをヒントに開発されたカメラ付き携帯電話が発売され、「写メール(写メ)」という言葉が誕生。現在のスマホにいたる。
有史以来のキラーコンテンツ
顔は自分の目でとらえることができない。だが人にとって、有史以来のキラーコンテンツだった。
ギリシャ神話には、泉の水面に映った自分の姿に恋した少年、ナルキッソスの物語がある。美しい姿に夢中になって泉から離れられなくなり、そのまま死んだ。ナルシストという言葉に面影を残す。
ナルキッソスは泉の中にいる美少年が自分だと気付き、こう言った。「わたしが望んでいるものは、わたしのなかにある(中略)わたしの愛するものがわたしから離れていたら!」(オウィディウス『変身物語(上)』中村善也訳、岩波文庫)
人は、泉の中から「わたし」を取り出した。王侯貴族は自らをモデルにした絵画や彫刻を制作させ、古今東西の画家は自画像を残した。「自分の顔は、最も興味深い観察対象の一つで、自分は何者かという問いかけの対象でもあった」と、鳥原さんは言う。
ナルシストか、それとも哲学者か。小学生で自撮りに目覚めた女子大学生は「勘違いされることが多いんですよね」と語り始めました。
自撮りをする人はナルシスト…