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 今回は伝染性単核球症についてお話しします。主に思春期から若年成人にみられる病気で、そのほとんどはエプスタイン・バーウイルス(EBウイルス)というウイルスに感染することによって起こります。

 伝染性単核球症という名前は、この病気が人から人にうつる性質を持っていて、血液を顕微鏡で観察すると細胞核を一つだけ持つ白血球(単核球)が増えていることに由来しています。

 EBウイルスは唾液(だえき)を介して感染し、ほとんどの日本人は大人になるまでに一度は感染します。EBウイルスが感染する細胞は白血球の一種のB細胞で、ウイルスは一生B細胞の中に潜んでいます。感染したことのある人のうち2~3割の人は唾液にEBウイルスを排出しているとされていますので、とても身近なウイルスと言えます。

 それまでEBウイルスに感染していなかった人が、思春期から若年成人の時期にキスを介してEBウイルスに感染して伝染性単核球症を発症することがあることから、欧米ではkissing disease(キス病)とも呼ばれます。日本では欧米と比べて乳幼児期に感染する人の割合が高いと言われていましたが、生活様式の変化から、最近では思春期以降に感染する人の割合が高くなってきているようです。

 乳幼児ではEBウイルスに感染しても気付かれなかったり、かぜ程度の軽い症状で済んだりすることが多いのに対し、思春期から若年成人では伝染性単核球症を発症する割合が高くなることが知られています。これは、乳幼児では免疫が未熟でEBウイルスに対する反応が不十分なのに対し、思春期から若年成人では免疫の発達に伴い、EBウイルスに対して過剰に反応してしまう人の割合が高くなるためと考えられています。

 症状としては、発熱、のどの炎症、リンパ節や肝臓、脾臓(ひぞう)の腫れ、発疹などがみられます。はじめのうちは、普通の風邪と見分けがつかないこともあります。発熱は多くの場合38度以上の高熱で、1~2週間続くことが多いようです。また、血液検査で様々な程度の肝機能の異常がみられることが多いのですが、黄疸(おうだん)などの重い症状がみられることはほとんどありません。

 発病している人の血液検査をすると、先に述べたように細胞核を一つだけ持つ白血球が増えています。この白血球は、通常のリンパ球よりも大型で、細胞核や細胞質の特徴にも違いがあることから、異型リンパ球と呼ばれています。この異型リンパ球は、EBウイルスが感染したB細胞を排除するために活性化し、増殖したT細胞であることが分かっています。

 ちなみに、血液の細胞のうち、主に病原微生物や異物の排除に関わっている細胞が白血球で、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球などの種類があります。このうちリンパ球にはT細胞、B細胞、NK細胞などがあり、B細胞は病原微生物や異物を中和する抗体と呼ばれる物質をつくることで、それらの排除に関わっています。T細胞には、他の白血球の働きをコントロールするヘルパーT細胞や、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を排除する細胞障害性T細胞などがあります。

 伝染性単核球症の診断は、症状や検査結果を総合的に判断して行われますが、EBウイルスに対する抗体の検査がたいへん役に立ちます。1回の検査で診断できることもありますが、通常は数種類の抗体を複数回測定し、それらの値の変動パターンからEBウイルスの感染を証明します。

 伝染性単核球症は基本的に自然に治る病気なので、治療は発熱や痛みに対する解熱鎮痛薬の投与など、症状に応じた対症療法が中心です。ほとんどの人が数週間以内によくなりますが、まれに脳炎、髄膜炎、心筋炎、肺炎、脾臓の破裂、気道の閉塞(へいそく)などを起こすことが知られています。意識障害、けいれん、呼吸困難、強い腹痛などがみられた場合には、急いで医療機関を受診する必要があります。

 

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/

(弘前大学大学院医学研究科小児科学講座准教授 照井君典)