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 被害の規模の大きさから「食品公害」とも言われるカネミ油症だが、制度上は食中毒事件として扱われてきた。高崎経済大の宇田和子准教授(環境社会学)は、食中毒、公害とは別の食品公害に特化した新たな救済の枠組みが必要だと訴える。制度の狭間(はざま)に落ち込んだとも言える油症被害の救済策について聞いた。

 ――油症発覚から50年。国の対応をどう見るか。

 場当たり的な対処の積み重ねが制度のようになってしまい、その制度が破綻(はたん)しているのに、放置され続けてきた。被害者の要求は顧みられず、問題は解決されずにいる。

 ――破綻した制度とは。

 一つは患者の認定のあり方だ。発覚当時の厚生省職員によると、診断基準は当初、患者が自分が油症だと気付く目安となる「おたずねポスター」の役割でつくられた。限られた症状にもかかわらず、それが患者の認定、棄却を振り分ける基準に使われるようになった。国は患者を一元的に判断する認定機関を設ける方針も示したが、既にあった(九州大の医師を中心とした)油症研究班に任せたまま、今に至っている。

 ――今の認定の問題は。

 ダイオキシン類の被害はまだ全容が分かっておらず、国際的な知見を総動員するべきテーマだ。国は患者認定の責任を研究班だけに負わせているが、すべて任せることはできない。医学的な認定から漏れても、状況から明らかに被害者だという人を患者と認める行政認定や司法認定のような制度が必要だ。弁護士らを加えるなどして、事実上、医者だけが認定している状況を止めないといけない。

 ――現在の事態を招いた原因は。

 油症のような食品による大規模な被害に対応する制度がないためだ。食中毒を扱う食品衛生法にはそもそも救済の概念がない。公害には国も関与した認定・補償制度があるが、食品に由来する被害は公害にあたらない。食中毒と公害の制度の空白に落ち込んでいる。

 発覚の後、厚生相は「公害に準じた扱い」の必要に言及した。国も普通の食中毒事件の扱いでは不十分との認識があったはずだが、結局、手を打たなかった。

 ――油症をめぐる国の責任の有無をどう見るか。

 「ある」と考える。ダーク油事件を受けて、人への被害が予見できたのに止められなかった発生責任と、被害を50年にわたって看過してきた責任だ。加害企業に資力がなく、補償の仕組みは当初から破綻していたが、その面でも被害者の訴えを無視し続けてきた。

 ――2012年成立の被害者救済法をどう見るか。

 未認定の被害者を広く救済して、幅広く施策を推進していく理念が守られず、部分的な施策の追加にとどまり、成果に乏しい。国は裁判で責任を問われていないことを「動かない理由」にしてきた。この法律で主体的に解決に介入することが可能になったはずが、国の姿勢は変わっていない。

 ――どのような制度、施策が必要か。

 食中毒とは別の、公的な救済を必要とする「食品公害」という事態を認め、その対応を制度化するべきだ。食品製造の大半は中小企業で、油症のように原因企業が補償を十分に行えない場合が想定される。食品関連の産業が費用を広く負担する基金が必要と考えている。

<アピタル:ニュース・フォーカス・その他>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(聞き手・奥村智司)

 ダーク油事件 カネミ油症の被害が発覚する8カ月前の1968年2月、カネミ倉庫(北九州市)が食用の米ぬか油と同じ工程で生産したダーク油製の飼料を食べたニワトリが西日本一帯で大量死した。農林省(当時)の原因究明は遅れ、食用油の危険性を厚生省(同)に伝えなかった。人への被害を防げなかった国の責任については、複数の裁判で判断が割れた。