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 認知症の人が、不幸にして事故を起こしてしまう。そんな万が一の事態への救済策を、独自に用意する自治体が出てきました。行方不明になったときの捜索費用をまかなう民間保険など、保険各社からも新商品や新特約が続々と登場しています。認知症になっても安心して暮らすには、どんなリスクへの備えが必要か。皆さんと考えます。

安心して外出できるまちに 「神戸モデル」事故被害者・加害者を市が救済

 認知症の人が起こした事故の被害者と加害者双方を自治体が救済する全国初の仕組みが、来年度から神戸市で始まります。「神戸モデル」と呼ばれる制度の要点をまとめました。

 まずは早期受診を促す助成制度です。65歳以上の神戸市民は、自己負担ゼロで認知症の検診・精密検査が受けられるようになります。もし認知症と診断されたら、市が保険料を負担し、最高2億円の賠償責任保険に加入します。認知症の心配があっても病院に行きたがらない人も多いなか、診断を受ける利点をはっきりさせる試みです。

 認知症の人が起こした事故(自動車事故は対象外)や火災などで市民が被害にあった場合は、加害者側の賠償責任の有無にかかわらず、被害者に給付金(最高3千万円)を速やかに支給。賠償責任が認められた場合には、上記の賠償責任保険に加入していれば最高2億円の賠償金を保険から支払います。コールセンターが24時間対応で事故の相談に応じます。

 民間保険の保険料など年約3億円の費用は、市民税の上乗せ(1人年間400円)でまかないます。市議会では負担増に反対意見もでましたが、市側は将来世代に負担を先送りすべきではないなどと説明し、理解を求めました。

 寺崎秀俊副市長は「まずは早期受診。診断を受けると賠償保険加入というメリットがあると伝えたい。不幸にして事故が起きても救済策があります。認知症の人が事故を心配して閉じこもることなく、安心して外出できる環境づくりが大事だと考えています」と狙いを説明します。

 認知症の人の事故や、第三者への賠償責任に関心が高まったのは、愛知県で認知症の男性が列車にはねられた事故がきっかけでした。JR東海が、振り替え輸送費など約720万円の損害賠償を家族に求める訴訟を起こしたのです。2016年の最高裁判決は、同居の妻ら家族に賠償責任はないとしましたが、事情によっては家族も責任を負う余地を残しました。

 こうした場合の公的補償については、国も関係省庁の会議で検討したものの、結論は「見送り」に。そんな中、神戸市議会は今月5日、この神戸モデルの実施を盛り込んだ「認知症の人にやさしいまちづくり条例」改正案を可決しました。久元喜造市長は記者会見で「国があきらめた課題でも、自治体は取り組む価値がある」と話す一方で、「本来は国でやっていただきたい。神戸市の取り組みを参考にして、国民全体を対象とした制度を国の責任で構築していただきたい」と求めています。

保険、捜索費用を補償

 認知症の人が行方不明で捜索が必要な状況になってしまった。そんなときの懸念を軽減する保険も登場しています。

 「認知症になる前ではなく、なった方が加入できる保険です」。10月発売の「認知症あんしんプラン」の特徴を、東京海上日動火災保険の担当者はそう説明します。認知症の人と家族の会(本部・京都市)のアンケートに協力。寄せられた声から浮かんだ不安の解消を目指して開発したといいます。

 「業界初」とアピールするのは、外出して行方不明になった時の捜索費用を補償すること(1回30万円が上限)。タクシー代などの交通費や、捜索を頼んだときの人件費などが想定されています。一般社団法人セーフティネットリンケージの捜索支援サービスも利用できます。

 認知症の人の行方不明届は年々増えており、警察庁によれば2017年には約1万5800人に達しました。認知症の人と家族の会の阿部佳世事務局長は「親類や施設の人に捜索を手伝ってもらったり、遠くの警察署に迎えに行ったりするときの交通費などが意外にかかっている。認知症の人が安心して生活できる社会のために、いざというときの保険は助けになると思う」と話します。

 認知症の人が他人にけがをさせたり、線路に入って電車をとめてしまったりした場合の賠償責任の補償(1事故1億円が上限)もついています。来年1月からは賠償の範囲を広げ、友人から借りた物や泊まったホテルの備品を壊した場合などもカバーできるということです。保険料は月1300円。40歳以上の認知症の人が対象で、医師の診断書がなくても契約できます。

自動車保険に特約も

 民間保険にも、認知症の人の増加を想定した商品が出てきています。

 損保ジャパン日本興亜ひまわり生命は10月から、認知症の予備群とされる軽度認知障害(MCI)と診断された段階で、保険金の一部を払う新商品「笑顔をまもる認知症保険」を発売しました。まだ認知症ではないMCI段階で払うのは、早期受診・対応を促すためです。認知機能チェックツールを使えるなどの特典もあります。

 三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険は、来年1月から、認知症などを想定した特約を自動車保険に新設します。事故を起こしたドライバーが認知症で「責任能力がない」とされた場合でも、家族らが監督義務者として賠償責任を負うときは、補償対象に含めると明確にしました。さらに、一人暮らしなどで監督義務者がいない場合も、被害者に賠償金を払います。同社は「責任能力がない運転者の事故で、救済されない被害者が発生するのを防ぐ」としています。(編集委員・清川卓史

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 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

●「59歳でアルツハイマーの診断を受けてから10年経過した母を介護しています。今では私のことも誰なのか分からなくなりました。様々な介護サービスを利用して今に至っています。認知症の人を見守る家族のつらさや切なさ……言葉に出来ない思いもたくさん抱えます。認知症の人に関わるとき大事なのは、ゆっくり時間をかけて穏やかに対応することだと思います。この『ゆっくり』が医療や介護の現場ではかなり難しい。人手が足りないのは処遇改善がなかなかされないのも一因と考えます。認知症の人を家族のみで支えるのは厳しく介護職員の方々に救われることが多いです。認知症の人たちに懸命に寄り添ってくれる介護職員の方々の処遇改善を強く望みます」(秋田県・40代女性)

●「ひとり歩きからの迷子による行方不明を防ぐために、地域の見守り合う体制を作れば子供からお年寄りまで地域全体でつながることにもなるし、防犯目的にもなると思います。認知症だからと特別視するのではなく、みんな行く先なのだからそのための準備と考え備えるべきだと思います。やりたくもない脳トレなどの認知症予防プログラムよりも、みんなで楽しく語り合える・集える、そんな街にしていこうではありませんか! 

・認知症を発症する前に死ぬか?

・認知症を発症するか?

の違いだけなのです。逃げることのできない脳の老化現象が認知症なのですから、怖がらずともに生きていける準備をしましょう」(京都府・50代男性)

●「認知症になったら伝える……特別なもののように考えなくて済む社会。年を重ねれば『老眼になってきたのよ』『白髪が増えてね』と笑いながら話せるように『最近認知症なのよ』と笑える社会。カミングアウトなどという言葉のない社会。誰もが目の前にあるものを大切にできる社会」(静岡県・50代女性)

●「介護制度の見直しが必要。介護者の経済的負担が重すぎる。経済的にゆとりがあれば、心に余裕を持ち介護できる。しかし、今の制度では無理。だから色々な悲しい事件報道がある。報道されるのはごく一部で、もっと多くの人々が苦しんでいる。一時期高齢者は預貯金がたくさんあるなどと報道されていたが今はどうか。年金だけで暮らせるはずが、いつの間にか年金は減額され医療費は上がり消費税まである。預貯金を崩し生活するしかない。社会保障充実のために消費税を払ったはずだ。無駄な兵器を購入を全て止め、全額社会保障に充てるべき。そうすれば、生活の不安も減り心穏やかに介護に専念出来る社会になる。国民のための国。為政者のための国ではない」(東京都・70代その他)

●「自分が認知症になったらと、まず当事者意識を。また、介護者の体験も大切なことだと思う。支える人もキツイけど、本人もキツイ。お互いにキツイばかりにならないように、オープンになれる居場所を作ることは大切なこと。それも安心できる居場所を」(福岡県・30代女性)

●「小学生ぐらいから認知症についての勉強をしてもらい、疑似体験などで認知症の大変さをしってもらう。認知症についての理解が深まることで、認知症の方が暮らしやすく、働きやすい社会にしていく必要がある。あとは、色々な病気や障害などを受け入れる寛容な心を持つことが大切だとおもいます」(大分県・30代男性)

●「人によって個性が違う。人と交流するのが好きな人、苦手な人など。80代の両親を見ていてそんなことを感じる。例えば認知症カフェなどの集団援助の場所を作っても、大勢の人の中が苦手な人には苦痛でしかない。おのおのの個性や希望に応じた過ごし方ができるように、早い時期から経済的や物理的な援助が受けられると良いと思う。特に家族がいない、いても孤独な老人について、認知症の発見や治療は後手後手となり、地域での孤立が強まる。サポートが必要。家族、経済的に恵まれ、ケアマネや民生委員と仲良し、なんて人が実際には手厚いサポートを受けられるのを見ていると、逆なのではないかと思うことも多い」(京都府・50代女性)

●「亡くなった私の父はレビー小体型認知症になりましたが、本当に地獄でした。徘徊(はいかい)や妄想がひどく、施設に入れても設備や備品を壊し職員様にも暴力をふるうために何度も退所させられ、その都度ほかの施設探しに奔走し、新しい施設に入れてもいつ施設から苦情の電話が来るかと毎日ピリピリしていました。精神科病院にも入れましたが病院でもさじを投げられてしまい、正直な気持ちとして『早く死んでくれればいいのに』と何度も思いました。今の日本の介護システムでは家族はとても前向きに生きることはできませんし、まして介護保険の財源がいつ底をつくかという現状では、認知症の親を持つ家族は延々と暗闇の中を進むような錯覚を覚えるでしょう」(東京都・50代男性)

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