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 小惑星探査機「はやぶさ」も旅立ったロケットの町で、宇宙を夢見る子どもたち。彼らを追った計8回の連載を、まとめました。(波多野陽)

さわれそうなほど近くに

 「来たぞ!」。昨年9月18日、鹿児島県・大隅半島にある内之浦港に最新鋭ロケット「イプシロン4号機」が陸揚げされた時、肝付町立内之浦小学校は昼休みを迎えたところだった。

 有水勝一郎教頭は、東京などから移り住んで同校に通っている5人の「銀河留学生」の児童を集めた。「せっかくだから見に行こうか」「やった!」

 ロケットの像がある校門を飛び出した子どもたち。駆けつけた港では、白いシートにくるまれた巨大な円筒状の物体がクレーンで下ろされていた。

 上陸したのは、全長26メートル、直径2・6メートルのロケットのうち、長さ12メートルの「1段目」。群馬県で製造され、種子島で燃料を入れられて、港にやってきた。近くに発射基地である宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内之浦宇宙空間観測所があるからだ。

 「あそこに何個の衛星が入っているの?」「もし、失敗して、落ちてきたら?」

 東京都から移り住んでいる袴田莞吹(いぶき)さん(10)と晏慈(あんじ)さん(10)の双子ら、同小の留学生5人はみな宇宙が大好きだ。岸壁で立ち会うJAXA職員をたじたじにするほど、質問攻めにした。

 その夜、車輪つきの荷台に載せられたロケットは、規制された道をのろのろと進み、観測所まで引かれていった。2017年春に東京都から来た4年生の岸本叶大(かなた)さん(10)は山の途中までロケットと歩いた。「手でさわれそうなほど近くにロケットがあるなんて。ここに来て良かった」

 ロケットは地元育ちの6年生、村岡陽生(はるき)さん(12)も見た。村岡さんにとって間近で見る4機目のイプシロン。「今度はどこから見るかな」と打ち上げを心待ちにする。

 1号機が来た時は1年生だった。村岡さんは「最近はだんだんとロケットの大切さが分かってきた」と話す。

     ◇

 ロケットが上陸して4日後の昼下がり。オレンジの瓦ぶきの屋根がある家に女性たちが集まってきた。内之浦では打ち上げの度に婦人会が千羽鶴を贈る。この日は、4号機の打ち上げ成功を祈って、色とりどりの鶴が針と糸で連ねられていった。

 一人、真っ黒に日焼けした少年がいる。埼玉県から留学している佐々木好夫さん(12)だ。将来の夢は宇宙飛行士だという。鉄工所を営む加藤継裕(けいゆう)さん(75)の家に18年4月から住んでいる。

 加藤さんの孫で、鹿児島県鹿屋市に実家がある榎屋航(こう)さん(11)も「親戚留学」でともに暮らす。佐々木さんが6年生、榎屋さんが5年生だ。実の孫である榎屋さんだけでなく、佐々木さんも加藤さんを「おじいちゃん」と呼ぶ。そして、榎屋さんは佐々木さんを「お兄ちゃん」と呼ぶ。

 2人が眠る前、部屋から漏れる話し声を一家はほほえましく聞くが、あいさつや生活がなっていないときは、加藤さんが分け隔てなくしかる。加藤さんは「この年齢でまた子育てをするとは」とまんざらでもない。

     ◇

 18年1月18日早朝、まだ真っ暗な空を切り裂いたイプシロン3号機の火を、佐々木さんは忘れない。埼玉県志木市でともに暮らしていた小学校教員の母(47)が多忙で、一人の時間が長かった。17年に肝付町の銀河留学を知った佐々木さんは母と打ち上げを見学し、「ここで暮らしたい」と思いを募らせた。

 応募したものの、なかなか里親が見つからなかった。そんな時、「4歳の頃から宇宙飛行士になりたいと思っていました」「(内之浦に)絶対行きたい」などとつづった佐々木さんの作文を読んだ加藤さん一家が、受け入れることを決めた。

 加藤さんは若い頃、北九州・八幡で腕を磨き、内之浦で工場を開いた職人だ。ロケットに関わる仕事を請けたこともあり、「日本のロケット開発の父」と呼ばれた故・糸川英夫博士と親交があった。博士から贈られた「苦しい時の友こそ真の友だ」と書かれた色紙を大切に持っている。「宇宙を夢見る子どもを応援したい」という。

 JAXAは昨年11月30日、イプシロン4号機を1月17日午前に打ち上げると発表した。省電力や低コスト化の新技術を試す衛星のほか、中国地方に人工流れ星を降らせるといったユニークな超小型衛星も軌道投入する。

内之浦、発射場でまちおこし

 ロケットには2種類ある。一つがH2Aなどの液体燃料ロケットで、国内では鹿児島県の種子島で打ち上げる。もう一つがイプシロンなどの固体燃料ロケットで、同県肝付町のJAXA内之浦宇宙空間観測所が発射場となり、探査機などの科学衛星を中心に打ち上げている。

 同観測所は糸川英夫博士が1962年に開いた。日本初の人工衛星「おおすみ」(70年打ち上げ)などがここを旅立った。2010年に遠く離れた小惑星からサンプルを地球に持ち帰った探査機「はやぶさ」も打ち上げられ、日本の宇宙開発の「聖地」として知られる。

 だが、ロケットのコストが問題視され、06年を最後に本格的な打ち上げが途絶えた。新鋭機イプシロンの開発で13年に打ち上げが再開されるまでの空白期を味わった町は、「ロケットの町」としてのまちおこしに取り組む。

 その一環として、17年度に始めたのが「うちのうら銀河留学」と名付けた山村留学制度だ。里親となる町内の家庭に1年間住み込んで地元の小学校に通う「里親留学」、町外の子どもが町内の親戚の家に住む「親戚留学」、保護者と一緒に町に移り住んで学校に通う「家族留学」があり、いずれも小学生が対象だ。

 ロケットや豊かな自然を身近に体験しながら成長できることが魅力で、町内の内之浦小学校に5人、岸良小学校に2人の留学生が通う。留学生たちは、児童数が少ない地元の小学校にとっても、学校を活気づける存在になっている。

内之浦の仲間、一生の宝物

 「『ハン・ソロ』(スター・ウォーズシリーズの映画)見た?」「レイア姫っていうのがね……」。鹿児島県肝付町の内之浦小学校。授業中、木工の課題の本棚づくりをしながら、佐々木好夫さん(12)は村岡陽生(はるき)さん(12)と談笑していた。宇宙が好きな佐々木さんが、「スター・ウォーズ」の登場人物や魅力について次々と話す。

ロケットの町で暮らす地元の児童や留学生、新たにできた宇宙を学べる公立の中高一貫校で学ぶ生徒たち…。そんな子どもたちが宇宙を身近に感じながら成長する様子を紹介しています。

 村岡さんが本棚のサイズを測る…

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