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 有力選手の「爆買い」が目立つ中国サッカー界だが、実は日本流の育成手法も採り入れられている。元日本代表監督の岡田武史氏が指揮官を務めた浙江緑城(旧杭州緑城)はその一つ。業務提携するFC今治から「サッカー学校」にコーチを派遣してもらい、草の根レベルから指導を見直す取り組みが始まっている。

 身長180センチを超える中学生GKが並び、セービングの技術を学ぶ。その横で、ちびっ子たちがジグザグドリブルに励む。練習が終われば、日本語で「アリガトウゴザイマシタ」。日本人コーチとお辞儀をしながら握手を交わす。

 「ようやく、これが当たり前の光景になってきました」。今治から派遣されて5年になる土橋功コーチは目を細める。

 拠点となる「緑城足球訓練基地」はサッカーコートが全部で9面ある巨大施設。50面ある広州恒大には及ばないものの、学校や寮も兼ね備える。スカウトされた「アカデミー」と、希望して入る「スクール」を合わせ、小学1年~高校3年まで、中国全土から約400人が集まり、寮生活を送る。

岡田氏が育成アドバイザー

 かつて監督だった縁もあり、岡田氏が育成アドバイザーに就任し、両クラブの関係が始まったのは2014年。グラスルーツ(草の根)からトップチームまで組織化された日本の「育成ピラミッド」の仕組みに浙江緑城が興味を持った。

 「それまで選手はコーチから言われたことをただやるだけだった。コーチたちもいつ、なんのためにその練習をやるのか。考えていなかった」。浙江緑城の中国人コーチ、付強はいう。

 5年前に派遣された土橋コーチはその光景に愕然とした。グラウンドにコーチが吸ったたばこが放置され、寮や施設もゴミが散らかりっぱなし。それぞれがバラバラの練習をし、コーチの指示は「走れ」がほとんどだった。ハーフタイムにはベンチを親が取り囲み、「よくやった」と選手に一斉に水を手渡した。

 「施設は素晴らしいのに、指導や育成のノウハウがない。子どもたちも親も、サッカーさえすればいいと思っていた」

 目先の結果を優先する中国では、数千万円をかけた有望選手の引き抜きが日常茶飯事。小学生のころから親の転居費も含めた多額の「カネ」が動く。浙江緑城でも最近、中学生の中心選手4人が別のクラブに移った。強化に力を入れるのは4年に1度のみ。全省から参加する五輪規模の「全民運動大会」で中心になる年代だけだった。

 岡田氏が今治で掲げる「岡田メソッド」は、そんな中国サッカーに育成の重要さを説く。16歳まで各年代でサッカーの原則を学ぶことを目標とし、年代別の練習方法を組む。小学生の年代ではステップの仕方を学んだり、ドリブルの細かいタッチを磨いたり。中国人指導者向けの講習会も開き、練習法を伝えた。

「発想大事にする子が増えた」

 付強コーチは「日本の細かい技術を学び、発想を大事にするプレーが子どもに増えた」と実感する。

 現在、FC今治から派遣されている日本人は6人。元横浜FC監督の中田仁司氏、熊本の元社長の池谷友良氏ら、Jリーグで監督を務めた指導者も中国の地で中学生を相手に声を張り上げる。

 口を揃えるのは「この子たちは『夢』や『目標』が実感できていない」ということ。人口14億人の大国も、W杯に出場したのはわずか1回。15年から習近平国家主席肝いりのサッカー育成の改革が始まったが、海外でプレーする有名選手はまだ少なく、中田氏は「自分がどうなりたいのか、どうしたらそこに近づけるのかを考えていない」という。

 「今は、我々が言っていることをなかなか理解できないかもしれない。それでも、大人になったときに『こんなこと言われたな』と思ってくれれば。それが、育成ですから」

 過去には中国・江蘇省や上海、大連のクラブに日本から指導者が派遣されており、サッカーの技術を伝えている。(照屋健)