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 元司法省幹部、太田耐造(たいぞう)氏(1903~56)。戦時下の統制に大きな役割を果たした一人の「思想検事」だ。その所蔵文書を国立国会図書館が公開し、近現代史の研究者らから注目を集めている。治安維持法改正の過程や「ゾルゲ事件」の資料も含まれ、通説が書き換えられる可能性もある。

 太田氏は戦前の検察官。27年に東京帝国大学法学部を卒業、東京地裁検事を経て39年1月、司法省刑事局で思想問題を担当する第6課長に就任した。

 41年の治安維持法改正では取り締まり対象の拡大や、再犯の恐れを理由に拘禁を続ける「予防拘禁制度」の導入に中心的な役割を果たした。また、右翼活動家が一部軍人と結んでクーデター未遂事件を起こした「神兵隊事件」や、独ソ戦開戦や日本の南進政策などの極秘情報を旧ソ連へ送ったスパイ、リヒャルト・ゾルゲの捜査にも関わった。戦時統制を担った「思想検事」として知られる。

 42年9月には、旧満州国の司法部刑事司長に赴任、44年12月に帰国して大審院検事などを歴任した。敗戦後の46年2月に甲府地裁検事正となったが、公職を追放されて弁護士を開業。56年3月16日、静岡地裁で刑事訴訟の公判中に心臓発作で倒れ、5日後死去した。

 17回忌を機に有志が編んだ追想録には、元同僚や後輩による「逸材中の逸材」「その行動は強烈」といった言葉が並ぶ。司法省刑事局で太田氏の後任となり、戦後に検事総長を務めた井本台吉氏は、「主に陸軍でしたが、軍人さんを完全に手なずけて、自分の言うように使いこなした形跡がある」と回顧している。

 戦時下に各国が繰り広げた情報戦や諜報(ちょうほう)活動に詳しい加藤哲郎・一橋大学名誉教授は「司法省の中枢にいて、出版や報道をはじめとした言論活動の規制作りから検挙者の取り調べまで、情報統制の全般を統括していた『思想検事』の代表格と言える人物」と話す。

 太田氏は作成したり回覧されたりした文書の一部を自宅に所蔵していた。公的な保存と活用を望んだ遺族が知り合いの研究者に相談し、伊藤隆・東京大学名誉教授(日本近代政治史)の仲介で2013年10月、国立国会図書館の憲政資料室への寄贈が決まった。

 同資料室はインターネットで閲覧可能な計150ページの目録も整備し、昨年に文書を公開した。28~52年の計1104点。書架の長さで約4・5メートルに達する。

 文書は徐々に研究者らの注目を集め、現時点で数グループが本格的な研究に取りかかり、複写や分析を進めている。

「非常に貴重な資料だ」

 文書には統制する側の考えや動向を跡づけるものが多く、「極秘」や「厳秘」と記されたものも多い。

 例えば41年8月、第3次近衛…

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