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 車が返却されると、レンタカー営業所の動きが慌ただしくなった。書類を確認し、傷を点検し、車をバックで動かすと、狭いスペースにぴたりと決めた。

 運転席から降りてきたのは白髪の男性だった。派遣社員の池田正英さん。76歳。車の内部を手際良く拭き、外は水で洗う。感覚がにぶるからと、手袋はつけない。大きな声で客を見送る。「お気をつけて行ってらっしゃいませ!」

 10年ほど前に同い年の妻に先立たれ、一人暮らしをしている。池田さんにとって、仕事は心の支えだ。

 埼玉県蕨市の自宅から千葉県市川市の営業所まで、3本の電車を乗り継いで片道1時間半。早朝からの就業時刻に間に合うように午前3時半に起きる。それを週4日。楽ではない。それでも「働けることが幸せなんです」と言い切る。

 地元の高校を卒業後、車の修理店で働いたり、タクシーの運転手をしたりした。その後、企業向けのハイヤー運転手になり、定年を延ばして70歳まで続けた。

 退職が近づいた時、「仕事のない生活」に想像がつかなかった。「じっとしているのは体にも良くない」。そんな時、取引先から紹介されたのが、高齢者の派遣を専門に扱う「高齢社」(東京都)だった。

 勤務地や職種など高齢者の希望に合わせて、企業に派遣する。時給は1千円ほどのことが多く、80代までの1千人以上が登録している。人手不足を反映し、最近は、現役世代が避けたがる早朝や土日の仕事が多い。それでも、同社の緒形憲社長(69)によれば「働かなければならない」というより「働きたい」という人が多いという。

 池田さんには、都内に住む長女(47)がいるが、頼ろうとは思わない。長女も「無理せず働けるうちは働いてほしい。友人のいる所に住むほうが、本人も楽しく生活できるのでは」と見守る。

 休日の夜、家の向かいのカラオケスナックで常連の友人たちと歌うのが、池田さんの楽しみだ。十八番は、北島三郎と鳥羽一郎のデュエット「演歌兄弟」。

 ♪人という字は 肩寄せ合って もちつもたれつ ああ生きている

 働くお年寄りが増えている。2017年の高齢者の就業者数は807万人と過去最多を更新し、その約4割は70歳以上が占める。

 政府も「人生100年時代」を旗印に、高齢者の就労を後押しする。膨れあがる社会保障費の抑制や労働力不足を補うため、お年寄りであっても、元気なうちはできるだけ社会を「支える側」に回ってもらおうというねらいだ。

 しかし、前向きに働きたい人や思うように働ける人ばかりではない。生活にゆとりがなく、「明日」への不安と背中合わせで生きている人たちも多い。

 東京都内の寺院。元日の初詣客でにぎわう人混みのなかに、屋台でリンゴあめを売る女性(74)の姿があった。彼女には、80歳まで働き続けなければならない理由がある。

(新屋絵理、水戸部…

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