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なんもく物語

 群馬県南牧(なんもく)村で10日間の取材を終えて東京に戻ったいまも、聞かされた「都市伝説」が忘れられない。

     ◇

 クマよけの鈴をランドセルにつけた小学生6人が、縦に並んで県道を歩く。

 シャラン、シャラン。

 同じような集団登校がもう一つ。それにスクールバスが2台。村で唯一の村立南牧小学校に、児童はいま29人だけだ。

 平成の始まり。村には三つの小学校があり、計221人が在籍していた。1994年に2校になり、2002年には1校になった。そして昨年、初めて卒業式が開かれなかった。6年生がいなかったからだ。

 村の子どもたちは、村のことをどう考えているんだろう。12月のある日、学校をのぞいてみた。

 午前8時。加藤佳子校長(57)が、児童をハイタッチで迎える。11年度から3年間、教頭を務め、17年4月に再び着任した。

 「ふるさとに帰ってきたような感じですよね。村全体が子どもたちを宝のように思ってくれていて、見守ってくれるんです」

 靴箱。玄関の壁側に3学年、120足分あった。これが埋まっていた時期もあったのだろうか。いまは、大半が空っぽだった。

 1学年の児童は多くて7人、少ない学年は2人だ。加藤校長は少人数の良い点として、教師がたっぷり時間をとって一人ひとりに向き合うことができる点をあげる。ただ、いろんな子どもがいる多様性は望めず、競争心はどうしても育みづらい。

 児童同士は多くが「ちゃん」付けで呼んでいた。性別や学年は関係なく。幼なじみゆえだろう。「まるで大きな一つの家族みたいです」と加藤校長。校庭では、1~4年全員が一つのコートでドッジボールをしていた。鬼ごっこをしていた5~6年も、すぐ横のコートでボールを投げ出した。

 授業が始まる。キンコンカンコン。1年生は国語のテスト。4人が四隅に分かれて座り、教室はがらんとしている。「さみしい」と思ったのは、僕が大人数の教室で学んだからだろうか。

 4年生6人は理科室にいた。アルコールランプを使った実験だ。6人用のテーブルを2人1組で使う。全員が鉄板にロウを塗り、火をつけ、間近で観察できる。なるほど、これは利点だ。

 5年生は女の子が2人きりで算数をしていた。紙を切り貼りし、平行四辺形をつくる。そして、交代で発表。パチパチパチパチ。拍手の音は重なり合わない。

 いやおうなしに発言の機会が回ってくるのは良い。でもその光景はやはり、少なくとも僕にとっては、さみしいものだった。

 1、2年生11人と一緒に給食を食べ、校内を見て回っていると、4年生の男の子が話しかけてきた。

 市川優真くん(10)。2階のベランダから、すぐそこにある山林を一緒に見ながら、話した。

 しばらくすると、「都市伝説みたいな話ですけど」と優真くんが切り出した。

 「この村はなくなるって言われています」

 どこで? 「テレビとか、いろんなところで」

 どう思う? 「この景色がなくなると思うと、正直こわいです。自然もひとも良いんです」

 どうしたらいい? 「僕が東京に行って有名になって、それで、えっと、村に音楽の大学をつくります」

 子どもは、まっすぐだ。どこまでも。そしてそのまっすぐさは、村を覆う複雑な現実と一体になって、胸を打つ。

 午後4時すぎ。キンコンカンコ…

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