本田靖明
40歳を過ぎてから2度の失職を味わった男性に、人材紹介会社の知人から電話がかかってきた。「突然ですが、社長をやる気はありませんか?」
組織の歯車として一日一日を懸命に生きる。ときに理不尽な人事や処遇に苦しんだり、組織との決別、新しい人生を考えたり。様々な境遇や葛藤を経験しつつ前に進もうとする人々の物語を紡ぎます。
◇
それは6年ほど前。鷹野行雄さん(57)が東京都内の喪服の卸売会社で営業職をしていたときのことだった。
聞けば、「トータス」という業務用スリッパを製造する東京の会社の社長が一線を退きたがっているという。後継候補は社長の30代の娘婿。だが本人はまだ別の会社で働いていて、戻ってくるまでの間をつなぐ「中継ぎ経営者」をやってほしいという話だった。
〈臨時の雇われ監督といったところか。外様の自分に務まるだろうか……〉
当時のトータスは価格競争でシェアを奪われ、赤字続きだった。7人の従業員は古参ばかりで、風当たりも強いに違いない。世間で中小企業の相続や事業承継が進まない理由を垣間見た気がした。
ふいに、材木店を営んでいた父の顔が浮かんだ。
父は60歳になると、「俺の代で終わりだから」と言って店をたたんだ。無口な人で理由を語らなかったが、社長業の重圧や孤独を一人息子の自分には背負わせたくなかったのだろう。
気づけば父が退いた年齢に自分も近づいていた。社長とはどんな仕事だろう? 苦労の先に喜びもあるんじゃないか。辛酸をなめた会社員時代の経験だって生きるはずだ――。湧き出す感情が背中を押した。
「お話、受けます」
■希望退職 バイト暮らし そし…
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