【動画】浮きイネが水につかると、急速に草丈を伸ばして10日あまりで水面上まで達する様子=東北大学・名古屋大学などの研究グループ撮影
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 アジアの洪水地帯に適応して、水の中で成長する「浮きイネ」。そのしくみを調べてきた黒羽剛・東北大助教や芦苅基行・名古屋大教授らのグループは、このイネにある遺伝子の変異が草丈を伸ばしていることを突き止めた。この遺伝子は、成長を促す植物ホルモン、ジベレリン(GA)の産生に関わる酵素をつくる働きを持っており、別の変異が第2次世界大戦後の「緑の革命」に利用されたことで知られる。

 東南アジアなどの河川流域では雨期に水かさが時に10メートルも増す。水没する植物もあるが、急速に草丈を伸ばす浮きイネは水面上に葉を出して生き延びられる。

 グループは水没した浮きイネで活発に働く遺伝子を解析。「SD1」という遺伝子に生じた変異が、成長を促すホルモンを大量に作り出すことを突き止めた。この時に作られるホルモンは、通常より盛んに草丈を伸ばすタイプであることもわかった。「浮きイネのSD1遺伝子には、GAの量と質というダブルの伸長効果を招く変異が生じていた」と黒羽さんは説明する。

 さらに、アジア各地から集められたイネを比べ、この変異の起源を探した。すると、東南アジアや南アジアに育ついくつかの野生イネにこの変異があり、バングラデシュの栽培イネでも見つかった。芦苅さんは「水没に適応する進化の中で生まれた変異を、農家がうまく選んで使ってきたようだ」と話す。

 成果は米科学誌サイエンスで報告された。論文は10.1126/science.aat1577で読める。

 SD1遺伝子に生じた別の変異は、穀物の増産を成し遂げた「緑の革命」で広く利用され、イネの多収化に貢献した。そちらは遺伝子の機能を失わせる変異で、GAの産生が弱まり、草丈が適度に低くなる。そうしたイネは強い風雨でも倒れにくく、また茎や葉に回す栄養が少なくて済むため、増収につながった。

 異なる変異が、洪水耐性と多収性という性質をもたらしたSD1遺伝子は、イネの栽培化を進める上で極めて重要な役割を果たしたと言える。(米山正寛)