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 テレビもスマホもクルマも持たず、自給自足に近い暮らしを何世代にもわたり守り続ける人々が北米大陸にいる。「アーミッシュ」と呼ばれるキリスト教プロテスタントの一派だ。彼らが多く住むペンシルベニア州ランカスターでは、観光客が民家にお邪魔してディナーを味わえるチャンスがあるという。さっそく席を予約して、勤務地ニューヨークから南西へと車を走らせた。

 「パラダイス」という名のランカスター郡内の街にカーナビをセットした。近くには、ときに「性交」を意味する「インターコース」という街も。アーミッシュが住む一帯にはなぜか珍しい地名が多い。幹線道路をマイペースで行く真っ黒な馬車を見かけたら、それはアーミッシュののものだ。目的地はもう近い。

 指定された住所にあったのは、アメリカの田園地帯によくあるごく普通の木造民家だった。この時期の日暮れは早く、集合時間の午後5時にもなるとあたりは真っ暗。なのにその民家の窓からまったく光が漏れてこない。住所を間違ったかと不安が募る。ほかのゲストたちも到着し、みな暗がりをウロウロしている。

 突然、民家のドアが開いた。「ようこそ、さあ中に入って」。今夜のホスト役のジョン・バイラーさん(45)とサラさん(41)夫妻だった。家に足を踏み入れた瞬間に思い出した。そういえばアーミッシュの家は電力網につながっておらず、極力電気を使わないんだった。家の中で明かりがついていたのは、裏手側にあるダイニングキッチンだけ。それもバッテリーで明かりがつくランプが一つ。どうりで外から気づかないわけだ。

 中国やカナダ、ドイツ出身という今夜のゲスト約10人が大きめのテーブルを囲んだ。冷蔵庫が電気ではなくガスで動くこと、食洗機や電子レンジが見当たらないことを除けば、これもまたごく普通の民家のダイニングである。おばあちゃんの家に遊びに来た。そんな雰囲気だ。

 「さあみんな、おなかはすかせてきた?」とサラさん。食べ物に感謝する祈りの時間の後、パンが配られた。ジャムもバターも地元産。ビーツのサラダ、インゲンのクリーム煮、リンゴのペースト、マッシュポテト、ミートボール、シンプルな塩味のパスタ、そしてチキンのグリルとグレービーソース。アメリカおなじみの田舎料理が大皿で次々と回ってくる。自分で食べたいだけ取り分け、隣の人に渡していくスタイルだ。

 チキンはカリカリに焼いた表面に、ハチミツでも塗ったのだろうか、ほんのりとした甘みがある。そこにハーブの香りが相まって食欲をそそる。ミートボールも、かすかに甘みが混じっている。サラさんの料理はどれも素朴な味わいで、おばあちゃん家の家庭料理、という形容がぴったりだ。アーミッシュの食材は、野菜も肉も卵も乳製品も、ほとんどが自分たちの農場でとれたものを使う。ニューヨークのような都会ではやる「ファーム・トゥー・テーブル」的な考え方の、まさに原型である。

 ドイツやスイスに起源を持ち、…

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