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 求人サイトを見て、飲食店や小売店の接客、様々な業界のカスタマーサービスやデータ管理業務などの仕事に、同じような内容と書式の履歴書を何通も送ってみる。それぞれの履歴書で決定的に違うのは名前だけ。英国系、イタリア系、中国系、中東系の民族が推定できる架空の名前で、それぞれ800通以上送ってみた。果たして、同じような経歴なのに求職者の民族性だけで就職の機会に差が出るだろうか――。

 様々な人種・民族的背景を持つ人たちが暮らす移民国家オーストラリアでこんな調査をした人たちがいる。首都キャンベラにある豪州国立大のアリソン・ブース教授らで、研究成果は2012年に発表された。

 履歴書を見て、企業側から「面接に来てほしい」と返答があった比率を、名前ごとに比べてみると明らかな差が出た。返答の割合が最も多かったのは、英国系で、イタリア系、中東系、中国系と続いた。中東系と中国系が英国系と同じだけの返答を得るには、それぞれ1・64倍と1・68倍余計に履歴書を出さなければいけなかった。イタリア系は1・12倍だった。

 先住民のいた大陸に18世紀後半以降、英国人らが入植した豪州で、白人を優先する「白豪主義」政策が廃止されたのは、1970年代。その後、インドシナ難民や、経済や教育の機会を求めてやってきた多くのアジア系の移民を受け入れてきた。今や4人に1人が外国生まれの移民社会を、政治家たちは「多文化社会」と誇る。

 開かれた社会のはずなのに、私たちアジア系には「見えない壁」があるようなのだ。

白人の「ボーイズクラブ」

 そんな状況を、これから社会に出る若者たちはどう感じているのか。アジア系の学生の姿が目立つシドニー大学のキャンパスを訪れた。孫徳承さん(23)は中国南西部・貴陽出身。法学部で学び、卒業後は弁護士として豪州の法律事務所で働くのが希望だ。豪州で最も歴史ある大学の学生とあってか、「就職はできると思う」と楽観的だ。一方で、法律事務所への就職は知人の紹介で決まることも多いという。留学生の身ではそんなコネはなく、「一般の求人に応募することになるから、競争は激しいと思う。確かに中国人の名前、ということが不利になることも予想している」と話した。

 就職活動では、学生時代のインターンの経験がものを言うことが多いが、法律事務所や豪企業の多くは、対象を国籍か永住権を持つ学生に限っていることが多いのだともいう。

 就職ができても、今度は別の壁が待ち受ける。マレーシア系中国人の移民の家庭で生まれたエリン・チューさん(35)は、05~16年に、豪州のいくつかの大手労働組合の書記局で働いた。労組では、キャンペーンの現場責任者にはなったが、「常に組合の幹部職にはなれないだろうと感じていた」という。

「労組は『ボーイズクラブ』で、指導部は英国系。写真を撮る機会があれば、アジア系の女性という私は多様性をアピールするうえで格好のシンボルになったけれど」。幹部は選挙で選ばれるが、事前選考の段階でアジア系が外されてしまうという。

目に見えた差別はなかったが、「自分はいつも、『永遠の外国人』と見られてきた」。アジア系米国人の夫と結婚。今は、シドニーと米サンディエゴを行き来する日々だが、「米国に比べて、豪州にはアジア系のヒーローがいない」と感じる。

 メルボルンに住むアダムさん(40)=仮名=は、大手の会計士事務所に十数年勤め、6年前に誰もが知る政府系企業に転職。3度の異動をへて、財務企画部門の管理職まで昇進した。しかし、自分より数ランク下の従業員なら3、4割をアジア系が占めるのに対して、自分より上となると、割合は10~15%に減る。役員には1人もいない。

 香港生まれで、両親の勧めで留学した。中高、大学と豪州で学び、すでに豪国籍も取得したが、さらに昇進するには、「仕事ができる、というのとは違う文化的な面からの努力が必要だ」と感じている。「オフィスに入れば、ラグビー、AFL(独自ルールのオーストラリアン・フットボールのリーグ)、クリケットの話だから」。会計士事務所時代、メルボルンで白人男性ならたいてい大好きなAFL観戦に顧客を誘うとき、「アジア系はお呼びではなかった」と思い出す。そんな共通の話題を通じた交流から、昇進にもつながる社内外の人脈ができる現実がある。

 政府の独立機関、人権委員会が18年に出した報告書によると、国内主要200社の上級役員計1663人のうち、73%が英国・アイルランド系、そのほかの欧州系が21%を占めた。アジア系を含む非欧州系は、6%にすぎなかった。人口比ならば、英国・アイルランド系は58%、そのほかの欧州系が18%、非欧州系が21%なのだが。国会議員や中央官庁、州政府の最高幹部クラスなら、「英国・アイルランド系偏重」がさらに強まり、ほぼ8割に上がる。

 報告書は「非欧州系を受け入れて40年になる」として民族的なアンバランスは、「時間がたてば解決するものではない」と企業や政府の意識改革を促す。

 アジア系の昇進を阻む壁は、女性が苦しむ「ガラスの天井(glass ceiling)」よりも破りにくいという意味で、「竹の天井(bamboo ceiling)」と呼ばれる。

「アジア系=英語が下手」

 アジア系などの非欧州系にとって厳しい社会の一端を示すような、興味深い別の研究が、昨年、発表された。

 韓国人とドイツ人9人ずつが話す英語に「外国人なまり」があるか、英語がネイティブの白人45人に①~③の三つのグループに分かれてもらい、評価してもらう。話し手はみな英語が達者な大学生や大学院生たちだ。

 グループ①は、音声だけを聞く。グループ②は、音声付きのビデオを見る。そして、グループ③は、音声のないビデオを見る。

 結果はどうだったか。

 韓国人の場合、①②③のいずれ…

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