ラルフ・ローレン辞めて「バンライフ」 持たない豊かさ
車のバンで暮らす「バンライフ」って、ご存じですか。日本でも静かに広がっています。
「もし家が火事になったら?」。そんな問いかけから広がっていった新たな生活スタイル。「火付け役」は、あの有名ブランドを辞めたデザイナーです。
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忙しい毎日から逃れるように、2011年、退社した。いらない物や家を手放し、最低限の物だけをバンに積み込んだ生活を始めた。
流行を追い、たくさんの物に囲まれる生活から一歩距離を置いて、自分にとって何が本当に必要なのかと考えたという。「それが、家が火事になったときに持って逃げる物だ」と動画で訴えかける。
ニューヨークで、米ファッションブランドの「ラルフ・ローレン」のデザイナーだったフォスター・ハンティントン氏。1988年生まれ。米国、しかも、世界中に知られたブランドを去ったうえに放ったのが、大量消費社会へのアンチテーゼだった。
豊かさを求めるときに何を選び、何を捨てるのか。「好きなことを隠さずに、自分に正直に生きる」と著書につづる。
そんな当たり前のことが難しい世の中だからこそ、引きつけられる生き方なのかもしれない。写真共有アプリ「インスタグラム」で「#vanlife(バンライフ)」と検索すると、欧米を中心に400万件を超える投稿がヒットする。
「車上生活」は、ともすれば貧困と結びついて考えられがちだが、バンライフは「旅するように暮らす」生き方。「持たない」ことをよしとする。
埼玉県出身の池田秀紀さん(38)は、ハンティントン氏に影響を受け、バンライフを始めた一人だ。お気に入りのコーヒーメーカーとスピーカーだけをバンに積み、「火事になった時に持って逃げる」以外の荷物は手放した。
「Less is more(少ないことは豊かなこと)。すべて自分で持たなくてもいい」と考えているという。
土地を買い、家を建てる。これまでの「不動産」に対して、場所に縛られず自由に動ける暮らしを実現するバンは「可動産」と呼ばれる。
米国で広まった車輪付き小型住宅「タイニーハウス」、バスを改造した「バスライフ」、軽トラックの荷台に小さな家を設けた「軽トラキャンパー」。
「動産」ならぬ「可動産」が、いくつも生まれている。(牛尾梓)
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