「夜中に哺乳瓶洗って消毒するのしんどい」――。赤ちゃんを育てる親たちのそんな声がSNSにあふれている。哺乳瓶の消毒は本当に必要なのか? SNSで読者の困りごとを募って取材する朝日新聞「#ニュース4U」取材班が専門家らを尋ねて回った。

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【動画】#ニュース4U「哺乳瓶、消毒する必要あるのかな?」

 「哺乳瓶の消毒の必要性について、毎晩考える……」。ツイッターでそうつぶやいていた女性(27)に会いに広島市へ向かった。山あいの新築一戸建てで生後8カ月の長女と会社員の夫(37)と3人暮らし。

 女性がつぶやいたのは長女が生まれて1カ月が過ぎた頃。1日8回、昼夜問わず3時間おきに母乳と粉ミルクを与えていた。哺乳瓶は使うたびに洗剤で洗い、市販の消毒剤のタブレットを溶かした水につけた。「回数も多いし、夜もあるし……」

 ママ友たちの意見を聴きながら生後6カ月になった頃に哺乳瓶の消毒をやめたが、疑問は消えていないという。「自分の手もなめてるし、おもちゃも消毒してない。哺乳瓶だけ念入りにする必要があるのかな」

製薬会社「消毒必要」根拠は

 薬液や錠剤、電子レンジに入れて使うスチームケース……。赤ちゃん用品店には様々なグッズが並んでいる。消毒を推奨するのは「生後3~4カ月ごろまで」「5~6カ月ごろまで」「1歳ごろまで」とメーカーによりまちまちだ。

 「ミルトン」のブランド名で哺乳瓶の消毒に使う薬液や錠剤を販売している杏林製薬(本社・東京)は「1歳ごろまで」と推奨している。根拠を尋ねてみると、広報担当者は「生後1カ月の新生児の抵抗力が大人の30%程度、生後15カ月で60%程度」だという1955年の論文を挙げた。「哺乳瓶だけではなく、赤ちゃんの口に触れるベビーグッズの衛生管理が必要です」と話した。

 厚生労働省は2007年、哺乳瓶について「徹底的に洗浄し滅菌することが非常に重要」との指針を都道府県に通知した。同じ年に世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)がまとめた粉ミルクの取り扱いに関するガイドラインを日本語に訳したものだ。

集団発生や死亡例…心配な菌

 ガイドラインによると、粉ミルクで最も懸念される病原菌はサカザキ菌とサルモネラ属菌。サカザキ菌は04年、フランスとニュージーランドで感染症の集団発生を起こした。フランスでは9人が発症し、2人が死亡。ニュージーランドでも1人が死亡した。乾燥に強く、哺乳瓶のゴムやシリコンなどに付着して増えることがあるという。乳幼児に感染すれば、腸炎や髄膜炎になる恐れがある。

 ただ、フランスで発症した9人はいずれも入院中の乳児で、うち8人は発症時に体重2千グラムに満たない低体重児。WHOによると、米国でのサカザキ菌の罹患(りかん)率は「10万人に1人」。このリスクを、どう考えればいいのか。

粉ミルク安全か、専門家は

 ガイドライン策定に先立つ04年、WHOとFAOは専門家を集め、サカザキ菌のリスクを検討する会議を開いた。専門家の1人として出席した五十君(いぎみ)静信・東京農大教授(病原微生物学)を訪ねた。

 五十君教授によると、サカザキ菌対策のために重要なのはお湯の温度という。「粉ミルクを70度以上のお湯で溶かせばサカザキ菌はほぼ死滅します」

 会議の意見を受け、ガイドラインは「70度以上での調乳」を強調。粉ミルクの多くが「70度程度」と注意書きをした。五十君教授は国内のメーカー5社の工場を回り、乾燥や殺菌の工程を見直すよう助言している。今の国内の粉ミルクは「安全性が非常に高い」と言う。

 では、哺乳瓶の消毒は必要ないのでは? 「それは何とも言えません。食品にリスクゼロはありえない。飲み残しがついたままの哺乳瓶を水で軽くゆすいで使うようなら、リスクはどんどん上がります」

「消毒は無意味」研究論文も

 一方、「消毒は必要ない」と明言する研究者もいる。鹿児島大の吉留厚子教授(助産学)は、熱に強いとされる細菌を哺乳瓶につけ、熱湯や電子レンジで加熱したり、食器用洗剤で洗ったりする実験をした。その結果、洗剤で洗い流すだけでも細菌を取り除くことができたという。

 助産師として母親たちと接した経験もある吉留教授は電話での取材にこう話した。「03年の論文ですが今も見解は変わりません。消毒に振り回されて疲れてしまうお母さんたちがたくさんいます。無意味な消毒はやめていいと伝えてください」

アメリカでは「消毒不要」論

 米国では「消毒不要」の考えが広がっている。米国小児科学会の広報担当、ノースウェスタン大学臨床助教授のアンドリュー・バーンスタイン医師がインターネット電話で取材に応じた。

 「温かい水と洗剤で洗って、自然乾燥させれば十分。昔と違って安全な水道水が手に入る先進国で特別な消毒は必要ありません」

 沸騰した水で煮沸しなくてもいいのか聞くと、「手で触って心地良いくらいの温度で十分です。冷たい水だと洗剤が落ちにくいので、温かい水がベターでしょうね。熱風で乾燥させる食器洗い機もおすすめです」と話した。

生後3カ月頃まで注意

 哺乳瓶を消毒する場合と、洗剤で洗うだけの場合を比べて、赤ちゃんの健康に違いが出るかどうか――。小児科専門医の水野克己・昭和大学教授に聞くと、「そういう研究は見たことがないので、分からない」と言う。

 水野教授によると、哺乳瓶にはサカザキ菌以外にも、様々な細菌やウイルスが紛れ込む可能性がある。

 例えば黄色ブドウ球菌は中耳炎や上気道炎、胃腸炎、シュードモナス属だと外耳炎や発疹のような皮膚の病気につながる恐れがあるという。生まれたばかりの赤ちゃんは免疫力が弱い。

 「生後3カ月くらいまでは哺乳瓶を消毒しましょうというのが一般的です。でも、毎回消毒する必要はありません。1日1回で十分。3カ月以降になると免疫力も高まるし、自分で指やおもちゃをしゃぶるようになる。そうなると、哺乳瓶の消毒にさほど気を使わなくてもいいと思います」

飲み残し、しっかり落として

 食中毒に詳しい相模女子大の金井美恵子教授(食品衛生学)に尋ねると、「細菌はアミノ酸を栄養素として増殖します。ミルクは細菌が増殖しやすい食品と言えます」と言う。

 では、ミルクを飲んだ後の哺乳瓶はどうすれば? 「毎回消毒までしなくても、少し熱めのお湯で洗って、きちんと乾かせば、細菌やウイルスはほぼ洗い流せます」。消毒剤などで消毒するにしても、その前にきちんと汚れを落としておくことが大事だという。

 「消毒剤に使われる次亜塩素酸ソーダは、ミルクの飲み残しのような有機物があると殺菌力が落ちます。まずは、しっかりと汚れを洗い落とすことが重要です」

取材して記者が考えたこと

 取材で出会った専門家は、哺乳瓶を清潔にすることの重要性を口々に強調した。瓶の中や乳首の部分にミルクのかすなどが残らないように、きちんと洗い流すこと。そのうえで消毒まで必要か不要かは、子どもの健康状態や衛生環境で異なるのだろうが、過度に神経質になる必要もない気もする。

 先に登場した小児科専門医の水野教授はこう話した。「完璧主義で疲れてしまい、子どもをかわいいと思えなくなるという親もいます。気楽に楽しく子育てしていただくことが一番です」

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