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(13日、大相撲初場所初日)

 「異様な雰囲気だった」と対戦相手の御嶽海が振り返る。「稀勢の里」コール一色の国技館。進退を賭す横綱は鬼気迫る表情だ。しかしその稀勢の里にいま、格下をのみ込む力はない。

 またも左差しにこだわった。いつも通り、おっつけで殺される。強引な突き落としで呼び込んでしまい、下からの押しに体を浮かされた。初日から4連敗した九州場所と同じ負けパターンだった。東支度部屋へ戻る横綱は、うつむき、目をつぶっていた。

 場所直前、調整ぶりを聞かれた稀勢の里は「順調にやれた。非常に良い稽古ができました」と口にした。表向きには、そう言うしかなかったのだと思う。

 九州場所で右ひざを痛め、冬巡業を全休。稽古は基礎運動が大半で、弟弟子の高安以外の関取との稽古は数えるほどしかできていない。それでも言い訳はできないし、簡単に「休場」を選択できる立場にない。連日のように繰り返した前向きな言葉は、出場するしかない自分を奮い立たせるものに聞こえた。

 この日の支度部屋。「また明日から、という気持ちですか」と問われ、「そうですね」と声を絞った。命運を占う一番を落としたショックはいかほどか。長期休場が始まった一昨年夏場所以降、出場に踏み切った初日の成績は1勝6敗。これまで負けた5場所は、いずれも場所途中で休場している。ただし今場所は、途中で逃げる道は許されない。(鈴木健輔)