女性が服用すれば、高い確率で妊娠を防ぐことができる緊急避妊薬(アフターピル)。原則、医療機関の処方が必要な国内の現状を変えて欲しいとの声を受け、厚生労働省の検討会がオンライン診療での処方の議論を始めました。避妊の啓発に取り組むNPO法人・ピルコンの染矢明日香理事長(33)に、緊急避妊薬の現状について聞きました。
――緊急避妊薬は、どんな時に使われますか。
避妊に失敗した時や、性犯罪の被害に遭った時などに、妊娠を避けるための最後の手段として使われます。望まない妊娠や、若年者の妊娠はその後の人生に大きく影響します。
――入手しにくいのでしょうか。
早く飲むほど効果があるとされています。しかし、学校や仕事などで病院にすぐに行かれず、受診が遅れる現状があります。人目が気になり受診をためらう人もいます。また、日本で承認されている薬「ノルレボ」は、販売価格が1万5千円程度。診察代なども含めると経済的な負担が大きいです。
ピルコンで相談に応じる中で、こんな方がいました。10代の女性で、男の先輩の家に遊びに行きレイプされてしまいました。緊急避妊薬を紹介しましたが、「高い」などの理由で購入することができませんでした。価格面で購入に二の足を踏む子は高校生などでは特に多く感じます。
――海外では、もっと入手しやすい国もあるようです。
米国や欧州などの44カ国では市販薬として販売されています。自販機で売られていたり、保健室の先生から無料でもらえたりする国もあります。日本の若者の状況とは全く異なります。女性が緊急避妊薬にアクセスできることはとても大切な権利です。
――どうすれば、入手しやすくなるのでしょうか。
私たちは市販薬にすべきだと思い、活動しています。2017年に厚労省が市販薬化を検討しましたが、パブリックコメントで賛成が圧倒的に多かったにもかかわらず見送られました。検討会議で「悪用や乱用の恐れがある」、「日本では性教育そのものが遅れている」などの意見があったためです。性教育が行き渡らなかったのはそうした環境がなかったせいですし、現に困った状況に直面する女性たちが少しでも安心して緊急避妊薬を使えることが大切です。署名活動をして市販薬にするよう訴えています。
――厚労省の検討会で、オンライン診療で処方できるか議論が始まりました。
市販薬化が実現するまでの経過的な措置として、オンライン診療はいい方法だと思います。空いた時間に受けることができ、利便性が高いです。検査や今後の避妊指導を受けることもできます。
緊急避妊薬は、ネットで輸入品の売買が横行しています。ツイッターでも「#ピル」などで検索すると「アフターピル安く譲ります」といったものが出てきます。薬が本物かどうか見分ける術はなく、アフターフォローもないよくわからない相手から買うよりも、医療者を通じて入手した方がずっと安全だと思います。
――ピルコンはどんな活動をしているのですか。
正しい性の知識を普及させるため、望まない妊娠や性感染症の予防について情報発信しています。イベントや学校での出前授業をしたり、相談に応じたりもします。
――どんな問題がありますか。
特に若年者では、避妊や性について正しい知識が行き渡っていないと感じます。日本の中絶件数は年間16万件で、うち1割を10代が占めています。望まない妊娠を防ぐための最終手段が緊急避妊薬ですが、あまり知られていません。高校の教科書によっては緊急避妊について載っていないこともあります。
緊急避妊薬も、のめば避妊が完璧にできるわけではありません。日常的に服用する低用量ピルやほかの避妊方法を用い、普段からパートナーと避妊について話し合っていくことも大事だと考えています。
――避妊について悩んだ時に、相談先に困るという人も多いと思います。
ピルコンでは、妊娠に関する悩みにLINEで自動応答で答えるシステムを開発しました(https://line.me/R/ti/p/%40gsz3448f)。避妊や妊娠検査、適切な機関についての情報を無料で提供していきます。すべての女性たちが安心して、主体的に自分の体や性のことを考えられるようになればと思います。
<プロフィル>
1985年生まれ。大学生の頃、思いがけず妊娠し、中絶を経験。その後、学生向けに避妊の啓発活動を始め、2007年にピルコンを立ち上げた。13年にNPO法人化し、理事長に就いた。望まない妊娠や性感染症予防の啓発、正しい性の知識の普及などに取り組んでいる。
<アピタル:ニュース・フォーカス・その他>
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