[PR]

 歌手のASKAさんが、自分が乗ったタクシー車内の映像をテレビ局に無断で提供されたとして、慰謝料などの支払いを求めた訴訟で東京地裁は「映像の提供に公益性はなく、プライバシーを侵害した」と違法性を認め、タクシー会社に220万円の支払いを命じた。

 映像提供者の責任を認めた判決をめぐり、関係者や専門家の見方は割れた。映像を流した民放4社のうち2社は、判決後の朝日新聞の取材に、報道には公益性があると判断した、と回答。「逮捕直前の映像であり、公共性公益性が高いと判断」(フジテレビ)、「著名人が再び覚醒剤所持容疑で逮捕されるという直前の様子を映した映像であり、公共性・公益性があると判断し放送した。およそ1日間放送した後、この映像は放送していない」(TBS)とした。

 日本テレビは「逮捕段階の総合的な判断で、逮捕直後に限り使用した」、テレビ朝日は「番組制作の過程については、従来お答えしていない」と回答した。

 元日本テレビ記者の水島宏明・上智大教授(テレビ報道論)は「今回は有名な公人に関わる事件。逮捕直前の容疑者の表情や言動は、視聴者の関心が高く、事件について判断するための重要な情報の一つだ。公益性を否定した判決は厳しすぎる」と話す。

 水島さんは「映像が容疑と関連しているかどうかを提供者が判断するのは難しく、提供の責任が問われると、情報提供者が萎縮し、取材にも制約が出てくる恐れがある」と危惧した。フジテレビは「取材にご協力いただいた会社にこのような判決が出たことは遺憾」とも回答した。

 一方、プライバシー侵害の問題に詳しい神田知宏弁護士は、今回の判決を「真っ当な判断」と評価する。「映像をネットなどに流した人が訴えられるケースはよくあるが、メディアへの提供に関する判決は珍しいのではないか。認められた慰謝料はネットの投稿によるプライバシー侵害に比べると高額だ。繰り返しテレビで報道されたことが重視されていると思う」

 判決は、映像がタクシーの車内を映したものであることも重視した。事件報道では犯行前後の足取りなどを追うために、街頭やコンビニの防犯カメラの映像を使う場合があるが、神田弁護士は「こうしたケースは事件との関連性が強く、公益性が高いので問題ないだろう」とした上で、「タクシーや漫画喫茶など『閉ざされた空間』を映したカメラは、よりプライバシー性が高い。判決はメディアに対し、『その映像を流さなければならない公益性』を慎重に検討するようにという警鐘を鳴らしていると言える」。

 田島泰彦・元上智大学教授(メディア法)は、「判断は基本的には妥当だと思う」。重視するのが、今回の映像がタクシーの車内で撮影されていた点だ。「自宅や病院の中と同じように、特に自分の権利や自由が大事にされるべき空間であり、報道機関は映像の提供を受けても、そこに事件の本質が含まれているのか、報道することに公益性があるのかを慎重に検討すべきだった」と指摘する。

 田島教授はさらに、ドラレコでの車内の撮影そのものについても問題提起する。「判決では『違法ではない』としているが、事故や事件の際に有効だという面と、プライバシー保護の観点との兼ね合いの問題は、慎重に議論されるべきだ。昨年のハロウィーンの際に東京・渋谷で起きた事件で、警察は被疑者を特定するために、街中の防犯カメラの映像を集めた。だが、権力に対して批判的な言動をする人に対しても、同じことができてしまう可能性があることも考えなくてはいけない」と話す。