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 旧南極観測船を模擬宇宙船に――。そんなプロジェクトが千葉県船橋市で始まる。日本の民間では初となる模擬宇宙生活の実験に、退役した「しらせ(現SHIRASE)」を活用する計画だ。日本が60年以上続けてきた南極観測隊の経験を宇宙生活に生かす試みでもある。

 主宰するのはNPO法人フィールドアシスタント(横浜市)理事長の村上祐資(ゆうすけ)さん(40)。厳しい条件下での住環境や生活を研究する「極地建築家」だ。

 実験では、船内の一部を火星をめざす宇宙船と宇宙空間に見立てて外部と隔離。まずは隊長、エンジニア、ジャーナリストら6人が2週間生活し、閉鎖空間がもたらす心理面の影響や人間関係の変化などを観察する。

 村上さんは「月の有人基地の設計をしたい」と、2008~10年の第50次南極観測隊で越冬し、エベレスト登山隊のベースキャンプなど「極地」での生活も経験。宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米国の火星協会の施設で閉鎖環境を体験する実験にも参加し、「今の宇宙での暮らしは、科学者が考えた『コックピットの延長』の中で行われている」との思いを強くした。

 火星への有人飛行は、往復や滞在で数年かかると見込まれている。そこで、村上さんは「日本が長く続けてきた閉鎖的空間での南極観測の知見やノウハウを将来の宇宙生活に役立てる象徴的な場だ」と、SHIRASEの活用を思い立った。「長期間の閉鎖的な生活では、人の心がよりどころにするものや、支えにするものが必要だ。実験でそれをみつけたい」という。

 実験では本物の宇宙さながらの環境を再現し、「地球側」との通信には6分間のタイムラグを設ける。食料は宇宙食を想定したフリーズドライ食品で、水の使用も制限。シャワーは1人3日に1回とする。宇宙船の気密性が失われたと想定し、宇宙服がないクルーが直径約90センチの「レスキューボール」に長時間避難する訓練もある。

 2月23日に始まる1回目は、同船が施設として利用できるかどうかを確認。活用できれば、21年からはクルーを公募して分析を重ね、火星への有人探査に反映させたい考えだ。宇宙飛行士をめざす人だけでなく、一般の人も参加可能だという。

 同船の活用を模索していたWNI気象文化創造センターの三枝茂事務局長は「南極と宇宙をつなぐ新しい挑戦を応援したい」。日本火星協会の村川恭介理事長は「日本で火星有人探査を広く知ってもらう上で意義がある」と話す。

 同NPOは使用する模擬宇宙服などの制作費を賄うため、朝日新聞社のクラウドファンディング「A―PORT」(https://a-port.asahi.com/projects/shirase/別ウインドウで開きます)で資金を募っている。(平井茂雄)

     

 〈SHIRASE〉 1983年に就航した3代目の南極観測船で、現在の「しらせ」の先代。2008年の退役後、スクラップとなる予定だったが、気象予報会社ウェザーニューズ創業者の故・石橋博良氏が引き取り、10年から千葉県の船橋港に係留されている。現在は石橋氏が設立した一般財団法人WNI気象文化創造センターが所有し、イベントなどで一般公開されている。