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 昨年明らかになった、東京医科大など複数の医学部入試で女子受験生が不利な扱いを受けていた問題。日本の性差別や男女格差について、あらためて考えさせられる象徴的なできごとでした。医学部生や医師は、現状をどう見ているのでしょうか。格差をなくしていくには何が必要でしょうか。みなさんと考えます。

偏る性別 患者にも弊害

 医学部入試の問題を、現役の女性医師はどう見ているのか。東京都と福島県の病院に勤める内科医、山本佳奈さん(29)に聞きました。

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 フェアであるべき入試で、得点操作などで女子を不利に扱うなんて、信じられません。「女子の方がコミュニケーション能力が高いから」なんて、あまりにもひどい。私は1浪して大学の医学部に入りましたが、当時は女性差別なんて全然疑わず、必死に勉強していました。もし差別の実態を知っていたら、医師を目指して頑張れたかどうか、自信はありません。

 医学部入試は、大学病院にとって医師のリクルートの場になっています。女性が出産などで休職するのは仕方ないはずですが、大学としてはちょっと点数が足りなくても、常に人員に穴をあけず、丁稚(でっち)奉公してくれる男性を採りたいということなのでしょう。そこまでして男性を多く採りたいのならば、募集要項に明示すればいいのでは。受験生も、その大学は嫌なら選ばなくていいわけですから。

 医療の世界は男社会です。大学5、6年生で各診療科を見学してまわった病院実習の時、私が女性だから「9時~5時で帰れるからいい」と特定の診療科を勧められたり、外科ではある女性医師が「あの人は女を捨ててる」と言われていたり。結婚や出産を考えると、「私ならこういうことはできるかな」と、選択肢を消去法で消していかざるを得ない現実に直面しました。

 医師の性別が偏ると、弊害もあると思います。福島県内で高齢女性の往診をしていた時、これまで女性の医師が来ることがほぼなかったせいで下腹部のデリケートな部分の相談をできていなかった、というケースが何件かありました。「かゆいけど、どうしたらいいか」と、私が新人の研修医だったにもかかわらず、すごくありがたがられた。男性なら男性に相談したいことってあるじゃないですか。逆もまたしかりです。

 女性医師を増やすには、女性が働きやすい環境をつくっていくことが必要です。他には、医師全体のパイを大きくすればいいと思います。入試がフェアであれば、自然と女性は増えてくる。患者さんにとってもメリットがあるはず。そして、この世界の男社会のような雰囲気をなくしていかないと問題は変わらないと思います。そのためにも、女性医師がもっと増える必要があります。(聞き手・吉沢英将)

入試不正 変えるきっかけに

 東京医大での不適切な入試が発覚した昨年8月、女性医師向けサイト「joy.net」は女性医師らにアンケートを実施。サイトの岡部聡子編集長(41)に聞きました。

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 女子受験生の一律減点について、「理解できる」「ある程度は理解できる」と答えた人が計65%に上り、正直驚きました。もっと怒りの声が寄せられると思っていたからです。

 ただ、よく声をきいてみると、圧倒的多数の男性の中で、多数派の働き方などに合わせられない女性が、消極的に容認せざるを得ない状況に追い込まれているからこその回答だと気付きました。「理解できる」という回答は、マイノリティーである女性の生存戦略なのです。

 例えば、女性医師らからはこんな声がありました。「世間がこれだけ騒いでいることにショックを受けた。思考停止していた自分に気がついた」「差別される側だったこと、仕方がないと受け入れてしまっていたことに、二重にショックを受けた」などです。

 入試での女性差別の背景には、医師の長時間労働、その要因となる医師の偏在や、軽症でも夜間・休日を問わずに受診する「コンビニ受診」など、構造的な問題があります。そこの解決なしに差別はなくなりません。医療政策のひずみ、制度の不備を女性が引き受けてきたという構図です。「男性を多く採ると募集要項に記しておけばいい」という声もありますが、根本的な解決には全くならず、私は賛成できません。

 では、どうしたらいいのか。回答からいくつか策は見えています。一つは、医療機能、特に急性期医療機能の集約化です。日本は世界で一番病院数が多い国。医師を集約すれば、勤務時間外に医師が駆けつける事態を減らすための複数主治医制などが導入でき、働きやすさにつながります。二つ目は、医療秘書や一部の診療行為を行う診療看護師を増やすこと。医師の仕事の半分近くが、カルテなど書類作成と聞きます。三つ目は適正待遇です。現在、当直や、病院から緊急の呼び出しがあれば対応する「オンコール」勤務をしても、十分な手当が支給されているとはいえません。そこが、当直やオンコール勤務ができない女性医師への不満や不公平感を生んでいる素地にもなっています。

 アンケ-トでは現状を容認せざるを得ない女性医師が多かった一方、東京医大の問題を機に、声を上げ始めた医師は多くいます。発信する人が増えれば変わります。この問題を、医療界を変えるきっかけにしてほしいし、しなくてはいけないと思っています。(聞き手・山下知子)

勤務医 働き方改革必須

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた、医師や医学部生からの声を紹介します。

 

●「女性医師です。学生実習の場や就職後の職場で、何度もセクハラ発言や性差別発言を受け、深く傷付きました。医学界は特に女性軽視が強いと感じています。医学部入試における差別の件はショックで、まだ未成年が多い受験生たちまで差別を受けるのかと不憫(ふびん)に思いました。出来ることは少ないですが、私たちの世代から変えていかなければと思います。個人的に、男性の育児が普及してほしいです」(宮崎県・20代女性)

 

●「自身のこれまでの職場では、男女差別は感じず、むしろ子育て中も働きやすいように配慮してもらえました。しかし、キャリアを積むチャンスがあっても、女性は家庭の状況などで自ら選ばない人が多いと感じます(自分も含めて)。どうしても配偶者次第、子供の性質次第、周囲のサポート状況次第で就労可能な時間が限られるからです。男性の働き方の改革が重要です。また、男性に比べ女性は生涯、家計を支えて働き続ける覚悟に乏しく、多様な選択肢を持っているため、男性のほうが働くプレッシャーは重く、逆の格差もあると思います。男性は育児家事について、女性は就労について、どちらも旧来の意識を変える必要があると思います」(東京都・40代女性)

 

●「現在研修医として働いていますが、『女性のライフワークバランスを応援している。ぜひ入局を』と言っていた教授が、実は子育てを考えている女医は経験を積める病院に回さないなどしていることがわかりました。将来専門にしたい科の教授でしたが、まともな医師になるために学ぶ機会を奪われるのなら、入局候補から外さざるを得なくなりました。子供を持ちたいと考えているのは夫も同じなのに、女性だけが育児と紐(ひも)づけられ、選択肢を制限される分、育児をしたい男性の思いもかなわなくなります。なぜ女医だけ『応援』されないと男性医師と同じ道を歩めないのか。その『応援』すらも嘘(うそ)とわかった今、道が閉ざされた思いでいます」(兵庫県・20代女性)

 

●「国立大学出身の勤務医です。今回の一連の事件について、単に入試不正をした医学部をバッシングして終わり、とならないか強く懸念しています。女性医師が活躍できる環境をつくるためには、勤務医の働き方改革が必須です。しかし、その議論は年配の男性開業医が主体の日本医師会や、勤務医を低コストで働かせたい病院経営者や官僚によって主導され、現場の声はほとんど無視されています。このままでは、医療界における男女平等は『百年河清(かせい)を俟(ま)つ』ようなものだと思います。マスメディアには、勤務医のきびしい業務実態について、もっときちんと伝えてほしいと強く希望します」(岐阜県・30代男性)

 

●「在学中、北欧に留学しましたが、日本が見習うべき点が多くあると思いました。女性医師は多いですが、時短勤務をする女性医師の穴は女性医師が埋めて助け合っていました。家では旦那さんが積極的に家事や子育てをしてくれるため、女性医師も仕事ができていました。また、医師は14時くらいには仕事を終え、夜勤も3交代制でしっかり休め、QOLも保たれていました。患者教育も行き届いていて、患者さんはめったなことでは病院に来ません。日本では過剰な医療により医師の過重労働が生まれていると思うので、患者教育も必要だと思います。環境が整えば女性だってちゃんと働けます。女性が悪いわけでは決してありません」(大分県・20代女性)

 

●「出産後の女性は当直は免除され十分配慮されており恵まれている。院内託児所は週一で24時間育児をしているが、その日を利用して夜勤をするのは看護師のみ。全く当直をしない女性医師がいる。そもそも平等でなく男性医師に負担があり、平等ではない。男女格差というワードは全て女性の地位が低いものだと決めつけてアンケートをしている」(静岡県・40代男性)

 

●「小さい頃から女性蔑視の視線に晒(さら)されてきて、今でもこのテーマについて常に考えさせられています。私は今医学生で、今回の報道がきっかけで学校でも討論会が設けられたりと、話題の渦中にいる立場ですが、周りでも平気で男女差別は仕方ないと発言するひとが多く、驚かされます。しかし今回のことがなければ、そのような意識は医学生の間でも当たり前のこととして浸透してしまっていたと思います。そういった意味では、今回女性差別は良くないと声をあげてくださった方全員に感謝したいと思います」(島根県・20代女性)

 

●「長時間労働こそが問題の根底にあるが、この問題に目をつぶって組織に都合のよい人材ばかりを集めた結果、意思決定の場に考え方に偏りのある人しかいなくなってしまっている。そして、医療界全体として時代遅れな意識が残ってしまい、結果として差別すら容認されうると考える人が多くなってしまっている。これまで働き続けられた女性医師でも『名誉男性』として長時間労働をしてきて自分と同じように働くべきと考えてしまう人が多く、仕事と家庭との両立をしようと必死で働く若手女性医師たちは長年苦境に立たされ続けたまま状況は変わっていない。入試での差別をなくすことは医療界が変わるために必要で、ラストチャンスかもしれないと思う」(岡山県・30代女性)

 

●「主治医制や、裁量労働制という名前の長時間労働(病院経営陣からしたら『医師、定額使いたい放題』)を改善しなければ、この問題は解決しないと考える」(東京都・30代女性)

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 アンケート「男女格差、なくせない!?」を31日までhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・3545・0201、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞社 編集局長室「フォーラム面」へ。

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