[PR]

 バブル景気に沸き、ポストモダンやニューアカデミズムといった言葉が流布した1980年代の現代美術を再検証する展覧会が相次いでいる。現代美術家の村上隆(56)は自身が企画した展覧会で、この時代のアートに「バブルラップ」なる名前を与えた。

 日比野克彦による段ボールのポップなトラックや横尾忠則の躍るようなタッチの人物画が次々登場――。

 大阪・国立国際美術館で20日まで開かれた「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」は約80点を制作順に並べる構成で、寡黙さ漂う80~81年から82~83年は一気にカラフルで軽やかに。解説は当時のアイドルブームや東京ディズニーランドの誕生に言及していた。

 近年、海外で戦後日本の現代美術の紹介が続くが、対象はほとんどが70年代まで。相次ぐ80年代展は、評価の定まらない時代を再検証する意図で共通する。

 より「現在」に引き寄せたのが、金沢展、高松展を経て、静岡市美術館で開催中の「起点としての80年代」(3月24日まで)。岡崎乾二郎や舟越桂、森村泰昌ら、現代美術の中核を担う19作家で構成した。

 「日常性」や「物語性」といった今日的な特性で作品群を分類。「実際に展示しても、古びた感じがしない」と以倉新・学芸課長。

 これに対し、熊本市現代美術館の「バブルラップ」展(3月3日まで)では、村上が自身のコレクションを中心に展示し、バブル期の日本の現代美術の再定義に挑戦。入り口には「Bubblewrap」の文字がネオン管で輝く。わたせせいぞうのイラストに登場するイメージだとか。

 石や木自体を見せるような70年代の寡黙な表現は「もの派」と呼ばれ、国際的な評価がある。一方90年代には、村上が自作を含め、琳派などから連なるアニメ、現代美術などの日本のアート表現を「スーパーフラット」と名づけ、定着させた。

 そのはざまにあるバブル経済期の表現を、「スーパーフラットと同様、米国人的な目で導き出した」言葉が「バブルラップ」だ。バブルラップとは合成樹脂製の気泡緩衝材のことで、いわゆる「プチプチ」だ。

 「日比野さんはバブル経済期なのに、素材に安っぽい段ボールを選んだ。この清貧さが、日本の美意識ではないか」と考え、「バブル」の名を冠しつつ、簡単に扱え生活に溶け込む緩衝材の名前を選んだという。

 展覧会では90年以降の清貧な表現として大量の陶芸作品も紹介。村上は、ファストファッションなどの例も挙げ、こうした美意識は戦後ずっと流れているとし、「金太郎あめみたいに続く。バブルラップも筒になる」と話す。

 欧州のファッションブランドが日本の80年代アートを援用する例もあるのに、日本人は「大事な文脈」を見落としているといういらだちもある。プチプチが日本社会をくるんでガラパゴス化させているのか。

 どの展覧会でも作品が紹介され、今は東京芸術大美術学部長の日比野は、「80年代は、アートと演劇や哲学、広告とのジャンル横断があって多様性が一気に増した。段ボールは貧しさというより、ヘインズのTシャツやコンバースのスニーカーと同様の日常性を取り込む感覚だった」と振り返る。確かに、同じく段ボールに描いた杉山知子や机にも描いた吉澤美香ら、日常的な素材が目立つ。

 村上はこう話した。「バブルラップが美術史に定着するかは分からない。みんなが乗ってくれたらムーブメントになるかな」(安斎耕一、編集委員・大西若人