渡辺純子
男性(22)は1月、西日本の山すその町にいた。山頂に続く国道をのぼっていくと、海を見下ろせる場所に出た。
「あった」
目の前に、電話ボックスがある。しばらく見つめた。スマートフォンを取り出し、シャッターを押した。
23年前の春。ここで、へその緒がついたままの赤ちゃんが見つかった。タオルにくるまれ、紙袋に入れられていた。それが、生後間もない男性だった。
17歳のとき、父に本当の子どもではないと言われた。親が寝静まった夜、母子手帳を探し出した。名字が修正液の上に書かれていた。裏からライトをあてると、別の名字が透けて見えた。
大学で一人暮らしを始め、戸籍をたどった。見たことのない住所があった。20歳のとき、初めて訪れた。詳しいことは、わからなかった。
お金がなかったのだろうか。若すぎたのだろうか。ぼくは生まれてきてよかったのか。
古い新聞記事を手に入れた。《電話ボックスに赤ちゃん置き去り》。見出しにそうあった。
今年1月の再訪で、初めて電話ボックスのある場所にたどり着いた。
「ご存じですか……。23年前、そこの電話ボックスに赤ちゃんが捨てられていたと思うんですが」
庭先でミカンを取っていた女性に尋ねると、竹やぶの向こうに住む人が詳しいと教えられた。訪ねた先で思わず声が出た。表札に、修正液の下に書かれていた名字があった。
居間に招き入れられた。コタツ…
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朝日新聞社会部