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 現在の日本では寄生虫症はまれな病気と思われていますが、かつては国民の60%以上が回虫に感染し、「国民病」と言われるほど広まっていた時代があります。人から人へ感染する回虫は、いまから半世紀以上前の昭和30年代までは人の糞尿を肥料にしていたため日本全土に蔓延(まんえん)していました。戦後、日本寄生虫予防会により、国民への徹底した寄生虫検査と公衆衛生教育が行き届き、日本のヒト回虫症は昭和45年(1970年)ごろには国民全体の感染率が0・2%程度になり、現在は感染率が0・002%以下とほぼ撲滅されました。

 近年、「アニサキス」という回虫の仲間がメディアに取り上げられる機会が増えています。アニサキスは、イカやサバなど魚介類のほとんどに寄生している「回虫目アニサキス科アニサキス属」の線虫です。

 ちなみに生物は、「門」「綱」「目」「科」「属」「種」の順番に細分化されており、近い関係にある「種」をまとめて「属」とし、近い「属」をまとめて「科」とします。他の生物の体を借りて生活する生物を「寄生虫」と言いますが、ヒト回虫は、「線形動物門・双腺綱・回虫目・回虫科」に分類されており、アニサキスと同じ回虫目に分類される親戚のような存在です。線虫というのは、線形動物門に分類される寄生虫のことを言います。

 回虫は動物に特異的に寄生し、決まった宿主の中でしか成虫になれない寄生虫です。人にはヒト回虫、犬にはイヌ回虫がおり、ネコ回虫やブタ回虫なども存在します。

 魚介類に寄生するアニサキスは第3期幼虫で、次の宿主に移行して大人(成虫)になる機会を待っている子どもです。小魚を捕食するクジラやイルカがサバなどを食べて初めて、アニサキスは安息の地にたどり着き、体長約3~10センチメートルの大人になることができます。サバやイカに寄生している時に人間の体内に入ったアニサキス幼虫の多くはそのまま排泄(はいせつ)され一生を終えますが、一部は人の体内にとどまり、耐え難い痛みを人間に与えることがあります。これをアニサキス症といい、感染する部位の違いにより、胃アニサキス症と腸アニサキス症に分けられます。

 症状は緩和型と劇症型があり、緩和型は寄生する場所にかかわらず症状が軽く、自覚症状もない場合が多いです。これに対し、劇症型の胃アニサキス症では食後数時間から十数時間後、同じく腸アニサキス症では数時間から数日後に、持続する激しい腹痛や差し込むような痛みとともに吐き気や嘔吐(おうと)を伴う急性腹症を起こし、手術が必要になることもあります。

 強い酸性の消化液で満たされた胃の中で生き残るアニサキスのたくましさに驚かされますが、寄生虫の多くは、熱や寒さに耐性がありません。アニサキス症を予防する一番有効な手段は加熱です。アニサキス幼虫は、60度では1分、70度以上では瞬時に死滅します。

 しかし、おすしやお刺し身をおいしく食べたいのも日本人の強い欲求です。その場合は、冷凍処理が有効で、零下20度以下で24時間以上凍結することでアニサキス幼虫は感染力を失います。魚の中心部まで熱が通るようしっかり加熱したり、必要な温度と時間で冷凍したりすることが大事です。

 また、アニサキスは内臓に寄生し、サイズは20ミリメートル以上と目で確認することができるため、手で取り除くことができます。しかし、魚介類の鮮度が落ちてくると内臓から筋肉内に侵入することがあるので、魚を一匹購入した際は、できるだけ早く内臓を取り除き筋肉への移行を防ぐのも有効な手段です。

 近年の食品流通網の発展により、生鮮食品は鮮度が高い状態で食卓に届くようになりました。海外でとれた魚介類を、その日のうちに日本で食べることが可能となっています。新鮮でおいしい食事を安全に食べるために、ひと工夫を忘れないようにしましょう。

 

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院保健学研究科助手 山内可南子)