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【アピタル+】患者を生きる・食べる(味覚障害の原因と治療)

 高齢者に多い味覚障害。高齢化に伴って今後患者数も増えていくと考えられています。味がわかりにくいことは「たいしたことない」と考えてしまうことも多いですが、食べる楽しみや喜びを奪われることは食欲不振につながり、特に高齢者にとっては深刻な影響を及ぼす可能性もあります。治療のタイミングや予防のための食事などについて、日本大学医学部の田中真琴さん(41)に聞きました。

――味覚障害の原因には何があるのでしょうか。

 味覚障害は、味覚の感度が低下した状態を言います。症状で最も多いのは何を食べても味が薄く感じる味覚減退と、味を感じない味覚消失です。この二つで味覚障害の8割以上を占めます。このうち、治療の対象になるのは、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味(うまみ)に対する症状です。

 原因で多いのは亜鉛の量が足りない、亜鉛欠乏性による味覚障害です。他の病気でのんでいる薬の影響が原因の薬剤性や、糖尿病や透析の必要な腎臓病など全身性の病気によるもの、うつや不安などによる心因性、原因のわからない特発性などがあります。

――薬剤性というのはどんな薬が原因になるのでしょうか。

 抗がん剤などは急性の味覚障害を起こすことがあります。また、高血圧や高脂血症の薬のように長期的な服用で次第に味覚が失われて、慢性的な味覚障害を起こす場合があります。原因になると考えてられている薬剤は200種類以上あります。薬によって味覚障害になる仕組みはまだ明らかになっていない点も多いのですが、一部の薬では亜鉛と薬が結びつき、体への吸収を妨げてしまう作用があります。

 慢性疾患の薬で味覚障害が起こっていると考えられる場合は、主治医と相談して薬を変える場合もあります。一方で、中止したり変更できなかったりする薬もあります。主治医とよく相談する必要があります。くれぐれも自己判断で薬の服用をやめてはいけません。

――味覚障害はどんな人に多いのでしょうか。

 日本口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)科学会の2003年の調査によると、年間約24万人の患者が味覚障害で、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診したと推測されています。6割が女性で、65歳以上の高齢者が患者の半数を占めています。

――どんなきっかけで味覚障害に気づくのでしょうか?

 味覚は五味のうちのどれかがわからなくなるというよりも、全体的に味が分からなくなることが多いです。かぜをひいた後に味がわからなくなり、その状態が1週間以上続いて受診するという人も多いです。

 発症から時間がたつと治りにくくなるというデータがあります。気づいたら半年以内に受診して早めに治療を始めた方が治りがいいといわれています。高齢者の場合、味がわからないからと、濃い味の物を好むようになったり、食べる楽しみがなくなって食欲が減退して体力が低下したりします。生活の質が落ちるだけでなく、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。「味覚がおかしいな」と気づいたら、軽く考えずに早めに医療機関に相談してください。

――どんな病院を受診したらいいのでしょうか。

 耳鼻咽喉(いんこう)科で「味覚」という名前のついた専門外来を開設している病院も東京都内にはあります。歯科で治療に関わっている歯科医師もいます。

――どんな治療をするのでしょうか。

 亜鉛欠乏性や薬剤性、特発性の場合は、足りないもしくは吸収されずに排出されている亜鉛を薬で補う亜鉛補充療法がします。亜鉛補充療法で7割の患者に改善が見られます。味覚障害の原因となる口の乾燥やビタミンB群の欠乏なども考えられる場合には、その治療も合わせて行います。回復を実感するのには3カ月から半年ほどかかります。長くかかると途中であきらめてしまう人もいますが、根気よく治療する必要があります。

 食事から亜鉛をとることも重要です。食品添加物が亜鉛と結びついてしまう作用があり亜鉛の吸収を妨げてしまうことがあります。なるべく添加物の少ない食事を心がけると共に、亜鉛が有効に働くようビタミンやミネラルもバランスよくとることが必要です。

――味覚障害を予防するにはどうしたらいいのでしょうか。

 亜鉛不足の原因の多くは食事です。食事に気をつけることで味覚障害の予防にもつながります。本来食事から取るべき亜鉛の量は成人の場合1日に7~30ミリグラムとされています。日本人の一般的な献立の1日亜鉛摂取量は平均8~9ミリグラムと少なく、2~4割の人が亜鉛不足ではないかと考えられています。

 亜鉛を多く含む食材は、魚介類のカキ、赤身の肉やレバーなどです。患者さんには、1回に食べる分量で比較した亜鉛の含有量が多い食品のグラフを渡しています。例えばカキ5個で亜鉛は10・1ミリグラム、豚レバー60グラムでは亜鉛が4・1ミリグラムなどです。また、亜鉛の吸収を助けるたんぱく質もしっかりとることが重要です。健康的な食生活が予防につながります。

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<アピタル:患者を生きる・食べる>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・月舘彩子)