[PR]

 「僕は生きる。この町と共に」。南海トラフ地震で大津波が予想される愛媛県や高知県の中学校で、生徒たちが「防災小説」づくりに挑んでいる。地震時に地域で何が起き、どう行動するかを考え、自らを主人公に物語をつづる。結末は前向きであることが条件だ。

 愛媛県最南端の愛南町は、南海トラフ地震で最大17メートルの津波が想定されている。町立御荘(みしょう)中学校では昨秋の文化祭で「防災小説コンテスト」があり、1~3年の各クラスの代表者が防災小説を朗読した。

 土曜日の午後2時に震度7の南海トラフ地震が起きた設定で、生徒1人が原稿用紙2枚以内で1本ずつを執筆。クラスで話し合って代表作を決め、他の作品の良い部分を採り入れて練り上げた。

 最優秀は2年1組の松岡愛美(まなみ)さん(14)の作品。主人公の「僕」が居間にいた時に巨大地震が起きた。避難所に向かう途中、消防団員として救助活動をする父の姿を見て「できることをやりきろう」と思う。避難所でトイレ係を務め、「できることがたくさんある」と実感する。「静かだった愛南町に少しずつ笑顔が灯(とも)り始める。僕は生きる。この町と共に」と結ぶ。

 「小説に書いたボランティア活動や笑顔を現実にしたい」と松岡さん。小説をみんなで完成させる過程で「避難経路、暮らしている場のことを改めて考え、これまで学んだことが身に付いた感じがする」と話す。

 同中では昨年度から防災小説づくりを始めた。防災教育担当の清家優秀(せいけまさひで)教諭(43)は「災害時に何をするか、自分に何が足りないかが小説を書くと見えてくる。仲間と話すことで知識も広がる」。読み比べれば、前年度からの成長も見えるという。

 愛南町では一本松中学校も今年度、全生徒が小説を書いた。各学年で1本を選んで15分ほどの劇にし、昨秋の文化祭で発表した。

 3年生の題は「未来の自分へ」。地震で自分や家族が被災する夢を見た主人公が、心の中のもう一人の自分や同級生とのやりとりから、友達と笑って過ごせる日常の幸せは、命を失えば無くなると気付き、災害への備えを決意する。

 主人公を演じた浅山千夏(ちなつ)さん(15)は「災害の時に自分はどうなるか、本当に考えながら演技した」。吉岡文香(あやか)さん(15)は「災害が起きて避難するまで、私はどう動くか、具体的に考えることができた。防災とは何かしっかり考えるようになった」と振り返る。

 好岡裕子教頭(51)は、小説を書くために災害について調べる生徒の姿を見て「深く考えるようになり、大きな効果があった」と感じている。観劇した保護者からも「物も心もしっかり災害に備えたい」などの感想が寄せられたという。

 「防災小説」を考案したのは、地震学や防災が専門の大木聖子(さとこ)・慶応大准教授(40)だ。愛南町や高知県土佐清水市などで防災教育の指導や助言をしている。

 きっかけは2016年。どうすれば生徒が防災を自分のことと受け止められるか、土佐清水市立清水中の教諭から相談を受けた。「自分を主人公にしたシナリオを書いてみては」と提案し、議論しながら「希望を持って終わる」などの防災小説のひな型を作った。

 同市では小説を書くことで「耐震性の高い家を建てたい」と建築系に進路を決めた生徒がおり、高校で防災活動に関わる生徒も多いという。大木准教授は「避難者を助けるといった自分を描くことで目標ができる。執筆はキャリア教育にもつながっている」と指摘する。

 高い津波想定に対して無力感があった大人が「死者ゼロ」で終わる小説を読み、地域防災を見直そうと動くきっかけにもなっている。大木准教授は「生徒の頑張りが大人を動かし、硬直した状況を打破した」と手応えを感じている。

 防災小説づくりは埼玉県熊谷市などにも広まっているという。(前田智)

   …

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

この記事は有料会員記事有料会員記事です。

【1/25まで】デジタルコース(月額3,800円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら