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 世界中で知られているダニ類は5万種類以上で、いまだ名もないダニも膨大な種類存在しています。節足動物に分類されるダニは昆虫と異なり、頭部と胸部が一体になった体と8本の足を持ち、生物学上、クモやサソリに近い生き物です。

 スコットランドで発見されたダニの化石によって、ダニの進化は約4億年前に始まり、恐竜や哺乳動物が生まれるずっと前から生息していたことがわかっています。

 寄生するための生き物のいない世界で生まれたダニ類のほとんどは、現代でも寄生を必要としません。枯れ葉や動物の死骸を餌として、それを分解することで、豊かな自然環境を作り出す役割を果たしています。ダニ類の多くは、悪さをするイメージとは異なる働きをしていますが、一部は動物に寄生して吸血したり、食品(小麦粉、乾物類)や衣類などに大量発生してアレルギーの原因になったりしていることも事実です。

 吸血性ダニ類のマダニは春から秋にかけて活発に活動します。動物の出す二酸化炭素や振動、体温などを感知する能力を駆使して寄生する相手を探します。獲物を感知したマダニは植物の上から飛び掛かり、獲物にうまく着地した後は刺しやすい柔らかい場所で何日もの間、吸血し続けます。

 人に害をなす寄生虫や節足動物などの分類学や臨床研究に関する「医動物学」でマダニは非常に重要視される節足動物です。大きな問題は、吸血により感染症を媒介するという点です。マダニの体内には細菌やウイルスなどの病原体が取り込まれている可能性があり、病原体は吸血の際、ヒトを含む動物に注入されます。もとは病原体を持たなかったマダニも、吸血により病原体に感染し、一生のうちに数回吸血することにより、病原体の運び屋として働くことになります。一部は親から子へ垂直感染する病原体もあります。

 マダニ媒介感染症としては、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)や日本紅斑熱などが知られており、近年このような感染症が増加傾向にあります。SFTSは、ウイルス感染後6日~2週間の潜伏期を経て、38度以上の発熱や、食欲低下・嘔吐(おうと)などの消化器機能の低下が引き起こされます。その後、重症化すると意識障害や失語などの神経症状や皮下出血などの出血症状が現れます。致死率は10~30%と報告されており、高齢者で重症化しやすいと言われます。治療は現在も症状を軽減するための対症療法のみで、ワクチンや有効な薬剤はまだ存在しません。

 日本紅斑熱は、リケッチアという病原体に感染すると2~8日の潜伏期間を経て、頭痛や発熱、倦怠(けんたい)感、関節痛、筋肉痛などが起こり、発熱とともに手足などに紅色の発疹が発生します。治療には抗生剤を用います。

 節足動物全般は、温度、湿度、気候および季節といった環境要因により生息地域が変化していきます。例えば、デング熱を媒介するヒトスジシマカは、平均気温11度を下回る地域では、越冬することができず死滅してしまいます。1950年までは東北地方で生息は確認されていませんでしたが、2010年の調査では秋田、岩手まで北上し生息域を獲得しています。

 今はSFTSや日本紅斑熱感染は、西日本中心に発生し、地域的な特異性を持つように思われますが、気候変動によって今後どれだけ北上してくるのかは未知数です。またマダニが寄生するための動物が生息する環境も、森林伐採により狭められ、同様にマダニの生息域が寄り集まる現象が起きていると言われます。病原体をもつマダニが大量発生したホットスポットに人が迷い込んだ時、大規模な集団発生が引き起こされる可能性があります。

 春の訪れとともに、マダニだけでなく人や動物も活動範囲を広げていきます。レジャーや山菜取り、観光など感染機会は意外なところに潜んでいます。虫に刺されないよう防護対策を忘れないでください。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院保健学研究科助手 山内可南子)