【動画】#ニュース4U取材班が「服を売るための声かけはしない」という店員に話を聞いた=高橋大作撮影

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 「買い物はしたいが、店の人には声をかけられたくない」という人が今、結構いるという。読者の疑問を募って取材する朝日新聞「#ニュース4U(フォーユー)」取材班の記者がその理由を尋ねて回るうち、ある古着店へとたどり着いた。

 「服を売るための声かけはしないんです。私も服屋さんで声かけられるの苦手なんで」。ファッションの激戦区、大阪・ミナミのアメリカ村。お気に入りの服を探して若者たちがやってくるが、店長はこう話す。あえて「声かけしない」接客が支持されているのには、今どきの若者たちの心をとらえる「戦略」があった。

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客から駆け寄り、近況報告

 6年前にオープンした「サントニブンノイチ」。パステルカラーの古着をリメイクした商品などが人気を呼び、名古屋や原宿にも出店。ネットでは「サンニブ系」という言葉も生まれている。

 雑居ビルの2階にある大阪店を訪ねた。日曜日午後2時。近くのカフェでランチを食べたという19歳と17歳の女性2人が店のガラス戸を開けた。

 店長の藤田日和(ひより)さん(22)を見つけると、すっと駆け寄り、近況報告を始めた。髪形、好きなアイドル、テーマパークで見かけたイケメン……。とりとめもない会話が続いた後、一人が「最近、冒険できてなくって」と、自分の服装について相談を始めた。

 「この間買ってくれたパンツに合わせるなら……これかな?」。藤田さんが服の話を始めたのは1時間後の午後3時すぎだった。

それぞれの店員に固定ファン

 店の特徴は「売るための接客」をしないこと。客に居心地のよい場所を作ることを優先している。しかし、それだけで客は店に通い続けてくれるのだろうか。藤田さんは「それぞれの店員にファンがいるんです」と答えた。店員たちはSNSを活用し、客と結びついているという。

 サントニブンノイチの系列店の店員はアルバイトを含めて計約20人。それぞれがツイッターやインスタグラムをしていて、フォロワーの合計は30万人を超える。店の商品を「モデル」として身にまとう。その姿がSNS上で目にとまり、芸能事務所にスカウトされた店員もいる。そんな店員たちに会いに客がやってくるという。

 「目指すのはふらっと遊びに来られる部室のような場所」だと藤田さんは話す。

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迫ってくる・怖い…若者に聞いた

 「なんで服屋の店員は目が合うと迫ってくるの?」「店員に話しかけられるのが怖い」。ツイッターにはそんな声がいくつもある。

 「グリコサイン」の看板で有名な道頓堀を行き交う若者たちに、店員の声かけについて尋ねてみた。「買え、買えと追い込まれていく感じが苦手」「声をかけられないようにイヤホンをつけて店に入る」との声があがった。

【動画】#ニュース4U取材班に届いた「服屋の声かけが苦手」という声。ショップ店員や専門家を取材し、その背景を探った=高橋大作撮影

「万引き防げる」「売り上げ伸びる」

 そもそも、物を売るときになぜ客に声をかけるのか。大阪府内のショッピングモールで、ある服屋の女性副店長に聞いてみた。「万引きを防げるし、買う気がない客に出て行ってもらえる。商品を買ってくれるお客様のために良い環境を保てるんです」

 東京・渋谷のアパレル店で働く20歳の女性店員もこう話した。「ガンガン話しかけた方が確実に売り上げは伸びます。売り上げが出世に直結するので、声かけをやめることはないですよ」

AIDMAの法則、崩れたか

 声かけは本当に売り上げにつながるのか。関西大学社会学部の池内裕美教授(消費者心理)によると、消費者の心理プロセスを表す「AIDMA(アイドマ)の法則」に従えば、店員の声かけは「理にかなっている」という。

 まず、店員の声かけで「注意(Attention)」を引き商品を認知させ、似合っている、流行しているといった情報を与えて「興味(Interest)」を持たせる。そして、欲しいという「欲求(Desire)」を感じさせて、商品を「記憶(Memory)」させる。さらに試着という「行動(Action)」まで引き込めば、一気に購入に近づく。

 だが、1920年代に米国で提唱されたという「AIDMAの法則」は、ネットやSNSの登場で「前提が崩れた」と池内教授はみる。「情報を効率的に集められるようになり、かつて情報源だった店員の声は、余計なノイズ(雑音)になってしまった可能性がある」

ファッション情報、今はネットから

 共立女子短大で若者のファッションを研究する渡辺明日香教授(現代ファッション)は、若者が店員との会話よりネットに頼るようになったのは、2008年ごろからと指摘する。iPhone(アイフォーン)が日本に上陸し、リーマン・ショックが世界を経済不況に陥れた年だ。

 「不況で雑誌の休刊が相次ぎ、若者はファッションの情報をネットから得るようになった。ネットでは、自分のフィルターを通して物を見る。そのため意外性のあるファッションに挑まなくなり、思いもよらないアドバイスをする店員は必要なくなったのではないか」

 この頃、H&Mやフォーエバー21など、低価格の衣料品を多く販売する「ファストファッション」が相次いで上陸。ユニクロも急成長した。渡辺教授によると「ファストファッションの店では、マネキンやポスターでコーディネートを示し、あらかじめ全てのサイズを棚に並べる。店員が声をかけなくても、客が目で見て買い物できるよう徹底している」のだという。

「声掛け不要」バッグが登場

 客が店員の声かけを必要としなくなった今、店側も対応を模索している。

 セレクトショップのアーバンリサーチは17年5月以降、全国23店舗に「声掛け不要」バッグを導入。店頭に置いた青い透明の手提げバッグを持った客には、声をかけない仕組みだ。「お客様の選択肢になればと導入した」と担当者。

格闘技のような接客練習も

 服のデザインや販売を教える大阪文化服装学院(大阪市淀川区)で、声かけを拒む客に対する接客の練習を見せてもらった。

 客役の学生が、「店」に足を踏み入れる。

 「いらっしゃいませ!」。店員役が元気に声を出すが、客の反応はない。少し距離をとって横目で様子をうかがう。つるされたジャケットに客が手を伸ばした瞬間、一気に距離を詰め、「本日、ご来店ありがとうございます」。目を合わせずにうなずく客に、店員は「合わせたいものがあったら言ってくださいね」と声をかけ、再び距離を取る。

 観察、接近、撤退を繰り返しながら、客との距離を縮める。その様子は、さながら格闘技のようだ。

「体験を売る」インフルエンサー店員

 店員役の下迫優乃(しもさこゆの)さん(19)は以前、客として服屋で店員に話しかけられるのが苦手だったという。だが、1人で買い物に行った店で優しい店員に出会い、考えが変わった。「前はおしゃれに関する知識がなくて、店員に話しかけられると緊張した。楽しくおしゃべりしてくれた店員さんにあこがれて、自分も販売員の道を目指しました」

 同学院でアパレル経営を教える講師の石川真理子さんは、店員の「インフルエンサー化」に注目している。「インフルエンサー店員」は、自分の店の商品を身につけて写真を撮り、ブログやSNSで発信する。「物を売るのではなく、『会える』『同じ服を身につけられる』という体験を売っている」と石川さんは説明する。

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店員、募集せず直接スカウト

 「やみくもに声をかける店員」から、「声をかけられる店員」へ――。インフルエンサーがいると知って記者が訪ねた「サントニブンノイチ」はそれを体現している店と言えそうだ。

 ただ、大阪店店長の藤田さんによると、驚くことに店員の募集はしていないのだという。店に来ている客の服装のセンスや性格を見極め、「うちで働いてみませんか?」とスカウトするのがサンニブ流のリクルートだ。

 大阪店で働く、専門学校生で「えむ」さんこと桑田芽衣さん(19)も元はお店の常連客。店を訪れてから半年がたった日の夜、「お店を手伝ってみない?」と当時の店長からLINEが来た。「うれしすぎて、しばらく息が止まった」と振り返る。

「客同士がつながれる場所に」

 お店ではSNSでお客からのリクエストを募り、期間限定で店員の働く店を入れ替える「シャッフル企画」や、店員によるファッションショーなども開催。高校生の頃からアメリカ村に通う藤田さんの目標は、最近少なくなった若者をもう一度この街に呼び戻すことだ。「服を売ることにこだわらず、お客さん同士がつながれるような場所にしたい」

 声をかけられるのが苦手という人は、まずはお気に入りの店員を見つけてみてはどうだろうか。(高橋大作)

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