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 幻想と現実が入り交じった写真作品から、トレーラーを舞台にした野外劇まで。美術家のやなぎみわ(52)は、ジャンルさえも横断しつつ、常に新たな表現への挑戦を続けてきた。高松市美術館で始まり、全国5会場を巡回する約10年ぶりの個展には、これまでの代表作のほか、日本神話をモチーフにした新たな写真シリーズを出展。また、今展のために作られた、機械による舞台上演もある。

 展示室に並ぶ、4台のマシン。手足がのたうつ「メルポメネー」、壁に向かってドクロを投げつける「ムネーメー」、音に反応して振動する「テルプシコラー」。その3台の間を動き回り、光を照らし、音楽を奏でる「タレイア」。それぞれの名前は、ギリシャ神話の文芸をつかさどる女神に由来している。

 展覧会タイトルと同じ「神話機械」の題が付いたこの展示では、4台のマシンが自動で動き、演劇空間を作り出す。やなぎは2010年から本格的に演劇プロジェクトを始め、そのときに一番興味深く思ったのが、美術にはない「再演」という概念だった。「俳優が同じセリフで、同じ時間の刻みを繰り返す。その再現性が面白くて、機械的だなと。それで機械での上演を一度やってみたかった」

 巡回する各会場では、機械と俳優が共演する有人公演もある(高松は2月2、3日に上演終了)。ドイツの劇作家ハイナー・ミュラーの戯曲を交えつつ、生と死の混沌(こんとん)とした世界が描かれる。「抽象的ですし、かなりわかりにくいと思います。私自身、1年間上演しながら、咀嚼(そしゃく)していくような感じですね」

 古事記をもとにした新作の写真シリーズ「女神と男神が桃の木の下で別れる」は、野外劇と並行しつつ、16年から福島市内の果樹園で撮影した。真っ暗闇の中、たわわに実った桃が光に照らされて浮かび上がる。

 CGや特殊メイクを使った作り込んだ作風から一転、シンプルでストレートな表現だ。「これまで人が何かを演じる作品が多かったんですが、それは全部演劇の方にいきました。でも、写真というものにも、私はすごく興味がある。ものを全部止めて固定してしまうのは、演劇と全く逆ですから」

 会場には、同じ制服の案内嬢たちがマネキンのようにたたずむ「エレベーター・ガール」、女性たちの「50年後の理想の自分」を表現した「マイ・グランドマザーズ」など、過去の代表シリーズも並ぶ。「今とつながっていると思うし、自分の経緯がわかる」と振り返る。「同じような人物が並ぶ『エレベーター・ガール』は、工芸的ですし、演劇にも通じている。『マイ・グランドマザーズ』の老女が語る設定は、今やっている野外劇(『日輪の翼』)と全く同じです」

 今展で発表した「神話機械」を、いつか野外へ持って行きたいという。「南極だとか、人の住んだことのない場所でやってみたい。そういう場所だと、人間が地球上から消えた後の光景が、よく見えるような感じがするんです」

 「やなぎみわ展 神話機械」は高松市美術館(087・823・1711)で3月24日まで。月曜休館(2月11日は開館し、翌12日休館)。一般千円。高松の後は、前橋、福島、横浜、静岡に巡回する。(松本紗知)