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 アメーバは、動物・植物・細菌のいずれにも当てはまらない生き物を総称する原生生物に分類される単細胞生物です。アメーバの語源は「定まった形のない」や「変化」というギリシャ語です。その言葉通り、土壌にすむアカントアメーバなどは、栄養が豊富な環境下であれば頻繁に細胞を分裂させ増殖し、乾燥や栄養がない劣悪な環境下では固い殻を形成して球状のシストという形態をとり、何年も休眠しながら生存することができます。

 人に害をなす寄生性の赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)は、世界保健機関の統計によると、全世界で毎年5千万人に感染し、4万~10万人の死亡者を出していると推定されています。赤痢アメーバは、サルやイヌ、ブタなどへの感染例も報告されていますが、日本国内ではヒトが最も重要な感染源となっています。

 赤痢アメーバに汚染された飲食物を人が摂取すると、大腸や肝臓でアメーバが増殖し潰瘍(かいよう)性の病変を形成します。典型的なアメーバ赤痢患者は、アメーバを含んだイチゴゼリー状の粘血便を排泄(はいせつ)し、数日~数週間の間隔で憎悪と軽快した状態を繰り返します。アメーバ赤痢の多くは、熱帯・亜熱帯地域の開発途上国などで蔓延(まんえん)していますが、先進国では性感染症として同性間の性的接触で感染する男性の増加が顕著になっています。

 近年、自然界に生息する「自由生活性アメーバ」の感染例が世界各国で報告されています。自由生活性アメーバは、私たちの生活に身近な環境のいたるところに生息しています。土壌や湖沼だけでなく、室内のほこりの中でも生活を営むことができます。長い間、自由生活性アメーバは人への病原性はないと考えられてきましたが、近年、自然界と動物への寄生の両方でライフサイクルを持つ「両性アメーバ」がいくつか発見されています。

 病原性をもつ自由生活性アメーバは、角膜炎や皮膚炎、髄膜脳炎を引き起こし、免疫力の低下を伴う基礎疾患を持つ患者の場合、致死的な症状を伴い治療は困難を極めます。髄膜脳炎を引き起こすアメーバの多くは、傷口や鼻腔(びくう)の粘膜から侵入すると考えられています。ヒトの体内に侵入したアメーバは、血流にのって脳内に侵入し、脳組織を栄養源として破壊しながら爆発的に増殖します。

 髄膜脳炎を引き起こすアメーバの一つである「バラムチア・マンドリラリス」は、1990年に米国カリフォルニアの国立動物公園で死亡したメスのマンドリル(オナガザル科)の脳から分離され、93年に新種として登録された、最も新しい病原性アメーバです。全世界で200件以上の罹患(りかん)報告がなされ、致死率は90%以上に及ぶ、難治性の致死性疾患と言われます。ウマやヒツジ、イヌなどの感染報告もありますが、いずれも致死的な症状を呈し死亡または安楽死となっています。

 罹患者は50代以降の中高年者に多いのが特徴です。一般的には、糖尿病や肝炎などの基礎疾患を持ち、免疫力が低下している人がかかりやすい日和見感染症であるとされていますが、日本国内では基礎疾患を持たない健常者も罹患しており、誰しもが感染リスクを抱えています。

 これまで日本国内のアメーバ性髄膜脳炎患者は11件報告され、全ての感染者で感染経路は不明なままです。バラムチア・マンドリラリスの主な生息場所は土の中ですが、日本の罹患者がどのような機会に感染しているのかはわかっていません。

 私どもの研究室ではこのアメーバの感染機会を明らかにするため、青森県内の土壌を用いて分離の試みを続けています。これまでに、いくつかの土壌中からバラムチア遺伝子を検出し、1株のバラムチアを日本で初めて発見しました(写真)。

 アメーバ性髄膜脳炎の罹患者の多くは、米国西海岸や中東地域など温暖な地域に集っていますが、青森のような非常に寒冷な地域にもバラムチアが生息している事実は、気候区分などに無関係に、この疾患が引き起こされる可能性を示します。

 高齢者や小さなお子さんの土壌との接触の際は、傷口などがある場合は直接土壌と接触しないよう保護し、土遊びやガーデニング終わりにはしっかりと手を洗うなど、衛生面に気を配ってください。私たちは、このアメーバの生態を調査し続けることで有効な予防や治療法開発につながる研究を続けていきます。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院保健学研究科助手 山内可南子)