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それぞれの最終楽章・口から食べたい(3)

鶴見大学歯学部非常勤講師・飯田良平さん

 私たちは、患者さんと一緒に外食に行き、実際にちゃんと食べられているか、確認することがあります。患者さんによって食べられるようになる量や食事の形態は違いますが、華やいだ雰囲気の中、食事を楽しむ姿を拝見するのは、この上ない喜びです。

 今回と次回は、そうした患者さんを紹介します。まず舌がんで舌の切除手術を受けた神奈川県内の80代の男性です。

 2009年4月、鶴見大学歯学部付属病院の口腔(こうくう)外科で、舌がんのため舌の右半分を切除されました。同時に舌の周囲のリンパ節や、のみ込み(嚥下)関連の筋肉も切除しなければなりませんでした。

 多くの人は普段意識しないと思いますが、舌は、食べるときに大変重要な役割を果たしています。かんだものを巧みな動きで塊(かたまり)にして、のどの奥に送り込んでいくのです。ですので、舌を失ったり麻痺(まひ)したりすることは致命的です。そのためこの患者さんには、胃に穴を開けチューブで栄養を入れる胃ろうをつくり、栄養をとるようにしました。

 そこで我々は、機能訓練とあわせて、院内の歯科技工士とともに、「舌の機能を代用する入れ歯」の製作に取りかかりました。口からのどの奥へと送り込めるように、特殊な機能をもった上下の義歯です。下側は凹型、上は凸型になっています。下側は、2cc弱の「くぼみ(ため池)」をつくるイメージです。このため池が深すぎると、のみ込む量が多くなり、誤嚥(ごえん)のきっかけとなるので、ちょうどいい加減の量にするのがポイントでした。さすがに舌の複雑な動きは再現できませんが、カチッと上下が合うと、飲み物や食べ物がのどの奥へ送り込まれます。

 義歯が完成し、手術から半年後には、ペースト状の食事をある程度むせずに食べられるようになりました。食べるためのリハビリに使用する「訓練食」は、毎回奥様が手作りし持参されました。春菊やアスパラ、いちごをすり鉢でペースト状にしたものや、おかゆ、マンゴープリンなどを準備し、外来で訓練を続けました。歯科衛生士や管理栄養士らもサポートしました。

 義歯にも慣れ、むせることなく食べられるようになってきたので、翌10年の9月、外食にお誘いしました。知り合いの和食店「井魚家(いざかや)いむら」(川崎市)です。ご本人は日本酒が大好きだったからです。

 店主に話をすると、「ちょっと怖いなあ」と渋い顔をされましたが、嚥下食のレシピ本をお渡しし、参考にしていただきました。

 私が、この外食を実現させたか…

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